《税務Q&A》
情報提供 TKC税務研究所
【件名】
「居住用賃貸建物」に関する資産に係る控除対象外消費税額等について
【質問】
7月決算のA社は、従前より税抜経理方式を採用しているところ、令和4年7月期(課税期間)の課税売上割合は約90パーセント、課税売上高は7億円程度になる見込みです。 A社は、令和4年3月に、5階建の新築賃貸用建物(以下「本件建物」といいます。)を2億5,000万円(別途消費税等2,500万円)で取得し、1階部分はA社の事務所として使用するとともに、2階以上は居住用賃貸住宅として一括借上げ方式により賃貸しています。 居住用賃貸建物に係る消費税等は「消費税の仕入税額控除」ができないため、階数による面積按分が合理的だとしますと、消費税総額2,500万円のうち4/5の2,000万円は「資産に係る控除対象外消費税額等」と算出されます(これを以下「本件控除対象外消費税等」といいます。)。 しかし、条文解釈上、「居住用賃貸建物」に係る控除対象外消費税額等は、「資産に係る控除対象外消費税額等」に該当しないようにも思われます。「本件控除対象外消費税等」については、法人税法上どのように処理すればよいでしょうか。
【回答】
1 法令について(1)住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされている場合に限るものとし、一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除きます。)(消法別表1十三)は、消費税を課さない(消法6〔1〕)こととされています。 そして、事業者が令和2年10月1日以後に国内において行う、上記の住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物(その附属設備を含みます。)以外の建物(高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産(1,000万円以上)に該当するものに限ります。)、つまり、「居住用賃貸建物」に係る課税仕入れ等の税額については、仕入税額控除の規定(消法30〔1〕)を適用しない(仕入税額控除ができない)こととされています(消法30〔10〕)。 ただし、この規定の適用を受けた居住用賃貸建物について、その仕入れ等の日から一定期間内に課税賃貸用(非課税とされる住宅の貸付け以外の貸付けの用)に供した場合や一定期間内に他の者に譲渡した場合には、仕入れに係る消費税額を調整することとされています(消法35の2)。(2)ところで、消費税法上の課税仕入れ等の税額として課税標準から控除できるのは、課税売上割合に見合う金額に限られることなどのため、法人が「税抜経理方式」を採っている場合で、課税売上高5億円超の場合のとき、又はその課税期間における課税売上割合が95パーセント未満のときは、仮払消費税等の一部が仕入税額控除の対象になりません(消法30〔2〕)。 「資産に係る控除対象外消費税額等」とはこうした部分の金額のことで、内国法人がその課税期間につき消費税法第30条第1項の規定の適用を受ける場合で、税抜経理方式を適用したときにおける課税仕入れ等の税額とこの税額に係る地方消費税の額に相当する金額の合計額のうち、同項の規定による控除をすることができない金額とこの金額に係る地方消費税の額に相当する金額の合計額でそれぞれの「資産に係るもの」と定義されています(法令139の4〔5〕)。(3)この「資産に係る控除対象外消費税額等」については、法人税法上、課税売上割合に応じて次のように処理することとされています(法令139の4〔1〕〔2〕)。ア 課税売上割合が80パーセント以上の場合 すべての「資産に係る控除対象外消費税額等」について、法人がその事業年度において「損金経理」をしたときは、損金の額に算入されることになります。イ 課税売上割合が80パーセント未満の場合 イ)棚卸資産に係るもの、ロ)特定課税仕入れに係るもの、ハ)一の資産に係る控除対象外消費税額等が20万円未満であるものについては、法人がその事業年度において「損金経理」をしたときは損金の額に算入されることになります。 (《1》)上記ア・イの「資産に係る控除対象外消費税額等」のうち「損金経理」を行わなかった金額と、(《2》)ア・イ以外の「資産に係る控除対象外消費税額等」の合計額については、これを「繰延消費税額等」として資産に計上し、「損金経理」により5年間で均等償却していくことになります(法令139の4〔3〕〔4〕)。 具体的には、次の算式により各事業年度の損金の額に算入できる金額を算出することになりますが、初年度については、事業年度の期央に生じたものとみなして次の算式の1/2の金額が損金算入限度額となります。 〔算式〕損金算入限度額=繰延消費税額等×(当期の月数÷60)2 ご質問について(1)まず、「居住用賃貸建物」に係る仕入税額控除の不適用規定(消法30〔10〕)に係る控除対象外消費税額等の場合、初めから仕入税額控除の規定を「適用しない」とされていますから、条文解釈上、そもそも「消費税法第30条第1項の規定の適用を受ける場合」に当たらないのではないかとの疑義が生じます。 しかし、法人税に係る国税庁の質疑応答事例「居住用賃貸建物に係る控除対象外消費税額等について」において、「税抜経理方式を適用する貴社が、消費税の申告に当たり消費税法第30条第1項の規定に基づき仕入税額控除の計算を行う場合において、同項の規定による控除することができない仮払消費税等の額は、控除対象外消費税額等に該当することになります」とした上で、「貴社が取得した居住用賃貸建物に係る仮払消費税等の額は、資産に係る控除対象外消費税額等として、法人税法施行令第139条の4((資産に係る控除対象外消費税額等の損金算入))第1項から第4項までの規定により、X1年3月期以降の事業年度において、貴社が損金経理した金額のうち一定の金額を損金の額に算入することができます」との判断を示しています。 また、このような判断は、通達(消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて)の改正(令和3年2月9日付課法2―6)においても、留意的に明確化されています(同通達の14の3(1))。(2)そうであれば、「居住用賃貸建物」に係る控除対象外消費税額等たる「本件控除対象外消費税等」も、「資産に係る控除対象外消費税額等」に該当すると解して問題ないと考えられます。 その上で、A社の令和4年7月期の課税売上割合は約90パーセントとのことですから、「課税売上割合が80パーセント以上の場合」に区分されることになります。 したがって、「本件控除対象外消費税等」は、すべての「資産に係る控除対象外消費税額等」についてその事業年度において「損金経理」をしたときは、全額損金の額に算入される(つまり、5年間で均等償却が不要)と考えられます。
【関連情報】
《法令等》
【収録日】
令和 4年 9月14日