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《税務Q&A》

情報提供 TKC税務研究所

【件名】

経理担当役員による現金の遺失

【質問】

 当社(3月決算法人)の代表者の妻であるAは当社取締役として経理事務全般を統括しています。
 Aは、年末に当面の経費支払用として当社普通預金口座から300万円の現金を引き出しましたが、その帰途で立ち寄ったトイレに、現金の入ったバッグをうっかり忘れてしまいました。帰宅途中で、現金の遺失に気づき、急いでトイレに戻って心当たりの場所を捜索しましたが、結局、現金入りのバックは見つかりませんでした。このため直ちに警察へ被害届を提出しました。
 しかしながら、決算期末が迫る3月となった今でもバッグ及び現金は戻ってきておりません。
 Aにおいても現金の遺失について落ち度があることは否めませんが、このような場合でもAが遺失した法人の現金について、当期の雑損失として損金の額に算入することは認められるでしょうか。

【回答】

 ご質問の趣旨は、法人の経理担当取締役であるAが遺失した法人の現金について、法人において雑損失として当期の損金経理できるか、というものと理解しています。
 法人税法上、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる金額とされています(法人税法22条3項)。
  1号 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
  2号 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
  3号 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
 なお、これら各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとするとされています(法人税法22条4項)。
 ところで、上記法人税法22条3項3号にいう「損失」の意義について、税法上に特別な定義は見当たりませんが、会計上、損失とは、「一般に収益の獲得のための活動に貢献せず、収益と因果関係のない財産上の価値の喪失をいう。」と解されており、典型的なものとして貸倒損失、災害損失、為替損失、盗難による損失などがあるとされています(「DHCコンメンタール法人税法P.1140」参照)。
 ご質問の「法人の現金の遺失」についても、「収益と因果関係のない財産上の価値の喪失」にほかならないと考えられますから、法人税法上の「損失」の範囲に含まれるものと考えます。
 もっとも、厳密にいえば、法人税法22条3項3号は「当該事業年度の損失の額」は「当該事業年度の損金の額に算入する」という規定ぶりとなっていますので、今回の「現金の遺失による損失」がいつの事業年度において生じたものなのかが確定しなければ、いつの事業年度において損金の額に算入してよいのかが決まらないことになります。
 この点は、事実認定による面が大きいと考えますが、〔1〕Aは、現金の遺失に気づいた直後に紛失したと思われる個所の捜索をしたが、発見には至らなかった、〔2〕そのため直ちに警察に被害届を提出した、といった事実関係の下では、一応、遺失した現金を回収するために実行可能な努力を尽くしたものと考えられます。また、一般的な経験則から言って、このようなケースにおいては遺失した現金が発見される可能性はおよそ低いとも考えられます。
 そうすると、今回のケースにおいては、遺失した現金回収のために実行可能な努力を尽くしたにもかかわらず現金が回収できないことが明らかになった事業年度である当期において、雑損失として損金の額に算入することが認められるものと考えます。
  
 なお、ご質問の雑損失に係る損金算入とは別の問題として、Aに対して損失の補填を求めるべきか否かといった論点もあろうかと考えます。この点を直接に法人税の取扱いとして明らかにしたものはありませんが、法人税基本通達9-7-16の考え方は一つの参考になるものと思われます。
 この通達は、法人の役員又は使用人がした行為等によって他人に与えた損害につき法人が損害賠償金を支出した場合の取扱いであり、〔1〕その行為等が法人の業務の遂行に関連するもので、かつ、故意又は重過失に基づかないものである場合には、支出した損害賠償金は給与以外の単純損金に算入する、〔2〕その行為等が法人の業務に関連するものであるが故意又は重過失に基づくものである場合又は法人の業務の遂行に関連しないものである場合には、その支出した損害賠償金は当該役員又は使用人に対する債権とする、とされています。
 今回の現金遺失の案件は、法人の役員がした行為等によって、他人に損害を与えたものではなく、法人自身に損害が生じたものではありますが、その行為者に対し、どのような場合に責任を負わせ損害額を補填させるべきかという点では、軌を一にする問題とも考えられます。
 このような考え方に基づけば、今回のような現金遺失により法人に生じた損失についてその行為者に損失の負担を求めるべきかどうかも、その発生が法人の業務の遂行に関連するものかどうか、また、その発生が故意又は重過失に基づくものかを勘案の上、決することになるものと考えます。

【関連情報】

《法令等》

法人税法22条3項3号
法人税基本通達9-7-16

【収録日】

令和 8年 4月20日


 
注1: 当Q&Aの掲載内容は、一般的な質問に対する回答例であり、TKC全国会及び株式会社TKCは、当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。個別の案件については、最寄りのTKC会員にご相談ください。
注2: 当Q&Aの内容は、作成時の法令等を基に作成しております。このため、当Q&Aの内容が最新の法令等に基づいているかは、利用者ご自身がご確認ください。
注3: 当Q&Aの著作権は株式会社TKCに帰属します。当Q&Aのデータを改編、複製、転載、変更、翻訳、再配布することを禁止します。

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