《税務Q&A》
情報提供 TKC税務研究所
【件名】
解除条件付の人材紹介料の損金算入時期
【質問】
A社は、事務用品の卸売を業とする12月決算法人ですが、新卒者の採用について、人材紹介会社B社の新卒採用支援サービスを利用し、翌期4月入社予定の人材を採用することとなりました。 B社の新卒採用支援サービスにおける紹介料等については、次のとおり約定されています。(1)A社が新卒採用支援サービスの利用を申し込むと、B社が新卒者で採用希望者を募集の上、A社に紹介するという運びになります。(2)A社は、新卒採用支援サービスの申込時に、着手金としてB社に対し20万円を支払いますが、この着手金は、採用の成否のいかんにかかわらず返還されません。(3)新卒採用支援サービスによる応募者の採用が決定したときは、A社はB社に対して成功報酬(以下、「本件成功報酬」といいます。)として80万円を支払います。この場合の「採用が決定したとき」とは、A社が応募者に内定を通知し、かつ、応募者が入社を承諾した時をいいます。(4)A社がB社に本件成功報酬を支払った後、応募者の都合により、入社予定日(平成28年4月1日)の前日までに応募者が入社を辞退した場合には、本件成功報酬は全額A社に返還されます。(5)応募者が入社した後に退職した場合には、退職の理由のいかんにかかわらず、本件成功報酬の返還は一切ありません。 そこで質問ですが、上記(4)のとおり、本件成功報酬については、入社予定日の前日までに応募者が入社を辞退した場合にはA社に全額返還されることとされていることから、本件成功報酬に係る債務は入社予定日において確定するものとされ、A社においては入社予定日までの間は損金算入することができず、前払費用として処理すべきことになるのでしょうか。 着手金の損金算入時期と併せてご教示ください。
【回答】
1 法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入される販売費、一般管理費その他の費用の額からは、償却費以外の費用でその事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除くこととされています(法法22〔3〕二)。 お示しの新卒採用支援サービスに係る本件成功報酬の支払は、入社予定日の前日までに応募者が入社を辞退したときは全額が返還されることを条件とする解除条件付の支払行為と認められます。 ご懸念は、本件成功報酬については、上記のとおり返還条項が付されていることから、その返還されないことが確定するまでは債務が確定したものといえず、損金算入できないのでは、とのご趣旨と解されます。2 ところで、一般に、「条件」のうちそれが成就することによって法律行為の効力が発生するものを「停止条件」というのに対して、その条件が満たされることで、すでに発生している法律行為の効力が消滅するものを「解除条件」といいます。 停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる(民法127〔1〕)こととされ、解除条件付法律行為は、その行為がなされたときに効力が生じ、解除条件が成就した時からその効力を失う(民法127〔2〕)こととされています。3 お示しの事実関係によれば、人材紹介会社B社の新卒採用支援サービスに係る成功報酬とは、「応募者の採用が決定したこと」について支払うものであり、「応募者が入社したこと」についてのものではないものと認められますから、本件成功報酬の支払債務は、採用決定時(応募者に内定を通知し、かつ、応募者が入社を承諾した時)において確定するものと認められます。 そして、応募者の都合により入社予定日(平成28年4月1日)の前日までに応募者が辞退した場合には、本件成功報酬の全額が返還されることとされているのは、本件成功報酬に付された解除条件にほかならないものと認められますから、その条件成就の時、すなわち「応募者の都合により入社予定日の前日までに応募者が辞退した時」において、本件成功報酬の返還額に係る収益が確定するものと認められます。4 以上のとおり、本件成功報酬は、「応募者の採用が決定した時」において、支払の効力が発生し、「応募者の入社予定日以前に応募者が入社を辞退した時」に支払の効力が取り消される(返還される)こととする「解除条件付きの支払行為」と認められます。 したがいまして、本件成功報酬の損金算入時期は、支払の効力が発生した「応募者の採用が決定した時」となり、返還金の益金算入時期は、支払の効力が取り消される「応募者の入社予定日以前に応募者が入社を辞退した時」とするのが相当と考えます。 なお、採用の成否のいかんにかかわらず返還されないこととされている着手金については、支払時において債務が確定しているものと認められることから、支払時の損金の額に算入するのが相当と考えます。
【関連情報】
《法令等》
【収録日】
平成28年 1月29日