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《税務Q&A》

情報提供 TKC税務研究所

【件名】

取締役退任後もみなし役員とされる者の役員退職金の損金算入の可否

【質問】

 甲社は、金属製品加工業を営む3月決算の同族会社ですが、創業以来30年にわたり代表取締役社長であったA氏は、平成26年6月、社内規定による役員 70歳定年制の適用を受けて取締役を退任し、後任の代表取締役にはA氏の長男B氏が就任しました。
 A氏は、「仕事を続けたい」との希望から、取締役退任後も使用人として甲社に残り、部品の組立作業等に従事していますが、時折、B社長の求めに応じて経営上のアドバイスを行うこともあります。
 なお、A氏の月額給与は代表取締役時の70万円から30万円に減額しました。
 また、A氏は、取締役退任に伴い、所有していた甲社株式の75%のうち50%をB氏に贈与した結果、現在の株主構成は、B氏50%、A氏25%及び取引先C社25%となりました。
 ところで、A氏の取締役退任に伴う役員退職金については、平成26年5月末の定時株主総会において、功績倍率を2.0として計算した4,200万円を支給することを決議し、平成26年9月末に支給して損金算入する予定ですが、退任後においても使用人として甲社に残るA氏に対して支給する役員退職金は、税務上どのように取り扱われることになるのでしょうか。

【回答】

1 お示しの事実関係からしますと、取締役退任後のA氏は、「みなし役員」に該当する可能性が認められますので、その検討を要するものと考えられます。
  すなわち、税務上の「みなし役員」とされる使用人とは、同族会社の使用人のうち、その会社の株式の一定の割合を有する株主グループに属する者(以下「特定株主」といいます。)で、その会社の経営に従事しているものをいい(法法2十五、法令7二)、この特定株主となる使用人とは、次のイ~ハの要件の全てを満たす者をいいます(法令7二、71〔1〕五)。
  イ 株主グループを所有割合が大きいものから順に並べ、上位3位グループの所有割合を算定した場合に、その使用人が次の(1)から(3)のいずれかのグループに属していること
  (1)第1順位の株主グループの所有割合が50%を超える場合におけるその株主グループ
  (2)第1順位及び第2順位の株主グループの所有割合を合計して初めて所有割合が50%を超える場合におけるこれらの株主グループ
  (3)第1順位から第3順位までの株主グループの所有割合を合計して初めて所有割合が50%を超える場合におけるこれらの株主グループ
  ロ その使用人の属する株主グループの所有割合が10%を超えていること。
  ハ その使用人(その配偶者や支配会社を含む。)の所有割合が5%を超えていること。
2 A氏は、B社長への甲社株式の贈与の後においても、甲社株式の25%を所有し、長男のB社長の所有持分を合わせると75%の株主グループに属することから、特定株主に該当し、かつ、使用人となった後においても、B社長の求めに応じて経営上のアドバイスを通じて甲社の経営に従事していることを前提とする限り、みなし役員に該当するものと認められます。
  そうすると、A氏は、会社法上の取締役退任の事実は認められるものの、税法上のみなし役員として役員に留まることから、役員としての退職の事実は認められないことになり、その結果、A氏に支給される退職金については、原則として、税務上は、退職給与以外の臨時給与として原則損金不算入とされることが考えられます。
3 ところで、役員の分掌変更等の際に支給される退職金が、次のような事実に基づいて支給される場合には、その分掌変更等によりその役員の地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることから退職給与として取り扱うことができるものとされています(法基通9-2- 32)。
 (1)常勤役員が非常勤役員になったこと(代表権のある者や実質的に経営上主要な地位を占めている者を除く。)
 (2)取締役が監査役になったこと(実質的に経営上主要な地位を占めている者や株主等で使用人兼務役員とされないものを除く)
 (3)分掌変更後の役員の給与が激減(おおむね50%以上の減少)していること(経営上主要な地位を占めている者を除く。)
4 上記3の(1)~(3)は、「退職と同様の事情」の例示にすぎませんから、A氏の場合も、上記2のとおり税法上は引き続きみなし役員として役員に留まるとしても、職制上は取締役を退任して使用人になり、かつ、その給与の額も半額以下に減少することから、上記3の(3)の取扱いに準じて、「退職と同様の事情」の存在が認められる可能性が考えられます。
  しかしながら、上記3の分掌変更等の際の退職給与が認められる(1)~(3)のいずれの場合も、「実質的に経営上主要な地位を占めている者」を除くこととされています。
  これに対して、上記1のとおり、使用人でみなし役員とされる者は、「その法人の経営に従事している者」とされていますから、これと「実質的に経営上主要な地位を占めている者」が同意義であれば、分掌変更等の後、みなし役員となる場合に支給される退職金は、税務上退職給与と認められないことになりますが、この両者は微妙に異なるものと考えられます。
  すなわち、「その法人の経営に従事している者」とは、「経営上主要な地位を占めている者」に比べてより広い概念であり、その主要な地位を占めている者のみならず、経営の一端に携わるにすぎない者をも含む概念と解されますし、他方、「実質的に経営上主要な地位を占めている者」とは、実質オーナー等として経営上の主権を掌握している者をいうものと解されます。
5 A氏が、「経営上主要な地位を占めている者」に該当するか否かについては、事実認定のいかんによることから確たることは申せませんが、例えば、A氏が、取締役退任後においては、事実上も経営上の中心的存在から退き、取締役会にも出席しないものの、社長から経営上の事項につき相談された場合等においてのみ、必要な助言を行う程度の経営参画状況にすぎない場合においては、みなし役員には該当しても、「実質的に経営上主要な地位を占めている者」とまではいえないものと考えられますから、A氏に対する役員退職金については、分掌変更に係る上記の取扱いに準じて、税務上も退職給与として、過大なものでない限り損金算入が認められるものと考えられます。
  他方、A氏が、取締役退任後においても、所有株式や先代の社長であること等を背景として取締役会等に対する隠然たる影響力を及ぼすなど、経営上の主権を引き続き掌握していると認められる場合には、「実質的に経営上主要な地位を占めている者」に該当するものと認めるのが相当であり、その結果、A氏に対する役員退職金については、「退職と同様の事情」に基づくものとは認められず、税務上は退職給与以外の臨時給与として原則損金不算入とされるものと考えられます。

【関連情報】

《法令等》

法人税法2条15号
法人税法施行令7条2号
法人税法施行令71条1項五
法人税基本通達9-2-32

【収録日】

平成26年 9月30日


 
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