《税務Q&A》
情報提供 TKC税務研究所
【件名】
大企業向け賃上げ促進税制における助成金の取扱いについて
【質問】
自動車用の部品を製造する3月決算法人のA社(資本金2億円)は、今期(令和5年3月期)において雇用調整助成金とキャリアアップ助成金(正社員化コース)の支給を受けていますが、このA社において、令和5年3月期を適用年度、令和4年3月期を比較事業年度として大企業向け「賃上げ促進税制」を適用する場合のこれらの助成金の取扱いについてご教示ください。
【回答】
1 大企業向け「賃上げ促進税制」の概要 令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用される大企業向けの賃上げ促進税制では、青色申告書を提出する法人が、平成30年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始する各事業年度において国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、その事業年度において下記の適用要件を満たすときは、その事業年度の控除対象雇用者給与等支給増加額の15パーセント(<上乗せ要件>を満たす場合には、最大30パーセント)相当額(以下「税額控除限度額」といいます。)の法人税額の特別控除ができることとされています(措法42の12の5〔1〕)。 イ 適用要件((注)の用語説明は、給与等の支給額に関するもののみを抜粋しています。) 次の1および2の要件を満たす必要があります(資本金額が10億円以上、かつ、常時使用する従業員数が1,000人以上である場合は、マルチステークホルダー方針を公表していることも必要となります。)。 1 国内雇用者(注1)に対して給与等を支給すること。 2 (継続雇用者給与等支給額(注2)-継続雇用者比較給与等支給額(注2))/継続雇用者比較給与等支給額≧3パーセント <上乗せ要件> 次の3又は4の要件を満たす必要があります。 3 (継続雇用者給与等支給額(注2)-継続雇用者比較給与等支給額(注2))/継続雇用者比較給与等支給額≧4パーセント 4 (教育訓練費の額-比較教育訓練費の額)/比較教育訓練費の額≧20パーセント (注1)「国内雇用者」とは、法人の使用人(その法人の役員と特殊の関係のある者等の一定の者を除きます。)のうちその法人の国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者をいいます。 (注2)「継続雇用者給与等支給額」とは、法人の適用年度および前事業年度の期間内の各月においてその法人の給与等の支給を受けた国内雇用者(雇用保険法の一般被保険者に限られ、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の継続雇用制度の対象者を除くこととされています。以下「継続雇用者」といいます。)に対する適用年度の『給与等の支給額(その給与等に充てるために他の者から支払を受ける金額(国または地方公共団体から受ける雇用保険法第62条第1項第1号に掲げる事業として支給が行われる助成金その他これに類するもの(以下「雇用安定助成金額」といいます。)を除きます。)がある場合には、その金額を控除した金額になります。以下同じです。)』をいいます。 また「継続雇用者比較給与等支給額」とは、法人の継続雇用者に対する前事業年度の『給与等の支給額』をいいます。 ロ 税額控除限度額 税額控除限度額は、次の算式により計算します。 税額控除限度額=控除対象雇用者給与等支給増加額(注1、注2)×15パーセント(注3) (注1)「控除対象雇用者給与等支給増加額」とは、法人の「雇用者給与等支給額」からその「比較雇用者給与等支給額」を控除した金額をいいます。 「雇用者給与等支給額」とは、法人の適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する『給与等の支給額』、「比較雇用者給与等支給額」とは、法人の前事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する『給与等の支給額』をいいますので、上記の「継続雇用者給与等支給額」等と同様、雇用安定助成金額がある場合でも、雇用安定助成金額を控除しないで計算します。 ただし、その金額がその法人の「調整雇用者給与等支給増加額」を超える場合には、その調整雇用者給与等支給増加額とされます。 「調整雇用者給与等支給増加額」とは、雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額ですが、この計算においてのみ、雇用安定助成金額がある場合には、雇用安定助成金額を控除して計算します。 (注2)その事業年度において「地方活力向上地域等において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除」(措法42の12)の規定の適用を受ける場合には、その規定による控除を受ける金額の計算の基礎となった者に対する給与等の支給額を基に計算した金額を控除した残額とされています。 (注3)上記の「適用要件(令和4年4月1日以後に開始する事業年度)」の<上乗せ要件>の要件3を満たす場合には、10パーセントが加算され、要件4を満たす場合には、5パーセントが加算されます。なお、いずれも満たす場合には15パーセントが加算されます。 なお、この税額控除限度額が、その適用年度の調整前法人税額の20パーセント相当額を超える場合には、その控除を受ける金額は、その20パーセント相当額が上限となります。2 「他の者から支払を受ける金額」の範囲 以上の本制度の適用上、給与等の支給額から控除する「他の者から支払を受ける金額」とは、次に掲げる金額が該当します(措通42の12の5-2)。 (1)補助金等の要綱、要領又は契約において、その補助金等の交付の趣旨又は目的がその交付を受ける法人の給与等の支給額に係る負担を軽減させることであることが明らかにされている場合のその補助金等の交付額 (2)(1)以外の補助金等の交付額で、資産の譲渡、資産の貸付け及び役務の提供に係る反対給付としての交付額に該当しないもののうち、その算定方法が給与等の支給実績又は支給単価(雇用契約において時間、日、月、年ごとにあらかじめ決められている給与等の支給額をいう。)を基礎として定められているもの (3)(1)及び(2)以外の補助金等の交付額で、法人の使用人が他の法人に出向した場合において、その出向した使用人(以下「出向者」という。)に対する給与を出向元法人(出向者を出向させている法人をいう。以下同じ。)が支給することとしているときに、出向元法人が出向先法人(出向元法人から出向者の出向を受けている法人をいう。以下同じ。)から支払を受けた出向先法人の負担すべき給与に相当する金額(以下「給与負担金の額」という。) そして、本通達の趣旨説明の解説では、「本通達の(1)に該当するものについて、例えば、国からの補助金で言えば、業務改善助成金のようなものが該当し、本通達の(2)に該当するものについて、例えば、国からの補助金等で言えば、雇用調整助成金、緊急雇用安定助成金、産業雇用安定助成金、労働移動支援助成金(早期雇い入れコース)、キャリアアップ助成金(正社員化コース)、特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)のようなものが該当する。」と説明されています。 また、「他の者から支払を受ける金額」のうち、「雇用安定助成金額(国又は地方公共団体から受ける雇用保険法第62条第1項第1号に掲げる事業として支給が行われる助成金その他これに類するものの額)」とは、次のものが該当します(措通42の12の5-2の2)。 (1)雇用調整助成金、産業雇用安定助成金又は緊急雇用安定助成金の額 (2)(1)に上乗せして支給される助成金の額その他の(1)に準じて地方公共団体から支給される助成金の額3 以上のとおり、A社が受給した雇用調整助成金とキャリアアップ助成金(正社員化コース)は、いずれも「他の者から支払を受ける金額」に該当し、このうち「雇用安定助成金額」に該当するのは、雇用調整助成金のみで、キャリアアップ助成金(正社員化コース)は該当しないものと思われます。 そして、大企業向け「賃上げ促進税制」において、雇用安定助成金額を控除して計算するのは、上記1ロの税額控除限度額の計算基礎の上限額となる「調整雇用者給与等支給増加額」のみであり、その他の上記1イの適用要件の判定における「継続雇用者給与等支給額」、「継続雇用者比較給与等支給額」及び上記1ロの税額控除限度額の計算基礎となる「控除対象雇用者給与等支給増加額」に関しては、雇用安定助成金額を控除しないで計算することとなります。 また、雇用安定助成金額に該当しない「他の者から支払を受ける金額」であるキャリアアップ助成金(正社員化コース)については、「継続雇用者給与等支給額」、「継続雇用者比較給与等支給額」、「控除対象雇用者給与等支給増加額」及び「調整雇用者給与等支給増加額」のいずれの計算においても、控除して計算することとなります。《参考》 令和4年度税制改正後の中小企業向けの賃上げ促進税制については、上乗せ要件を満たす場合の税額控除率の引上げ以外は、改正前の所得拡大促進税制と同様の仕組となっておりますので、中小企業向けの賃上げ促進税制に係る助成金の取扱いについては、「【文献番号】43203393【件名】所得拡大促進税制等における助成金の取扱い(その1・雇用調整助成金)」及び「【文献番号】43203394【件名】所得拡大促進税制等における助成金の取扱い(その2・キャリアアップ助成金(正社員化コース))」をご参照ください。
【関連情報】
《法令等》
【収録日】
令和 6年 1月15日