《税務Q&A》
情報提供 TKC税務研究所
【件名】
形式上の貸倒処理をした売掛金の備忘価額を消去できるタイミングについて
【質問】
A社では、法人税基本通達9-6-3の形式上の貸倒れの取扱いにより、10年以上前に備忘価格1円を残して貸倒処理した売掛金が管理台帳に多数残っていますが、回収見込みもないためそれらを管理台帳から消したいと思っています。この備忘価格1円はどのような状況になれば、税務上問題なく消去できるでしょうか。
【回答】
1 法人が有する金銭債権について貸倒損失が認められるケースとしては、(1)法人税基本通達(以下、この記述を省略します。)9-6-1《金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ》に示されるいわゆる「法律上の貸倒れ」、(2)9-6-2《回収不能の金銭債権の貸倒れ》に示される「事実上の貸倒れ」及び(3)9-6-3《一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ》の「形式上の貸倒れ」のいずれかに該当する場合に限定されています。 このうち、9-6-1の「法律上の貸倒れ」は、更生計画認可の決定や特別清算による協定の認可の決定等により切り捨てられた部分及び弁済困難な債務超過先に対する債務免除額など、金銭債権が法的に消滅している場合であり、損金経理を要件とせずに、事実の発生した事業年度において貸倒れとして損金の額に算入されます。また、9-6-2の「事実上の貸倒れ」は、法律上はまだ債権として存在しているものの、その債務者の資産状況、支払能力等からみて当該債権が経済的に無価値となり、その全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において、損金経理により貸倒処理することを認めるものです。 これに対し、9-6-3の「形式上の貸倒れ」は、法律上債権として存続しており、必ずしも経済的価値がなくなったとはいえないものについて、「継続的な取引を行っていた債務者との取引の停止、最後の弁済期又は最後の弁済の時のうち最も遅いとき以後1年以上経過した場合等には、その債務者に対して有する売掛債権について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。」との取扱いです。2 この9-6-3の「形式上の貸倒れ」についてのみ、備忘価額を残して貸倒処理することが求められているのは、この取扱いが、法律上の貸倒れや事実上の貸倒れのように、債権が法的に消滅したり経済的に無価値となったわけではなく、継続的な取引先との取引停止後、一定期間の経過、という形式基準により貸倒処理を認めるものであり、その後の回収可能性を残しているものであることから、会計帳簿上も当該売掛債権を残して管理していくことを前提とした取扱いとなっているものと思われます。 この点、同通達の解説書では、「この取扱いにより備忘価額を付して貸倒れの経理をした売掛債権については、その弁済を受けることを約しても、実際に弁済を受けるまでは益金算入を要しない。」とされ、 また、「売掛債権について備忘価額を付した場合の補助簿の整理、取引先ごとの明細とその後の回収状況等の経理については、企業においてその会計処理上当然に行われるべきものであろう。」と説明されており(税務研究会出版局発行「九訂版法人税基本通達逐条解説」971ページ)、当該売掛債権について回収可能性があることを踏まえ、法人において当該売掛債権を管理していくことが、この貸倒処理を認める前提となっているものとも思われます。3 したがって、お尋ねの備忘価額1円を消却できるタイミングについては、この点について通達上は特に言及されていませんが、基本的には、当該売掛債権について、9-6-1の法律上の貸倒れや9-6-2の事実上の貸倒れの要件に該当することとなり、当該債権が法律的に消滅したり経済的に無価値となる時点までは、備忘価額を残して当該売掛債権を管理していくことが求められるものと思われます。
【関連情報】
《法令等》
【収録日】
令和 3年 5月17日