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《税務Q&A》

情報提供 TKC税務研究所

【件名】

設立1期目の事業年度中途から支給開始した役員給与の定期同額給与該当性について

【質問】

 A社は、運送会社に勤務していたBが独立して、本年7月に設立したばかりの同族会社(3月決算法人)ですが、現在のところ、一般貨物自動車運送事業の営業許可を申請中であり、収益もまだ生じていないことから、B社長及びC取締役(B社長の妻)に対する役員給与もまだ支給を開始していません。
 B社長の意向としては、当分は前勤務先からの退職金で生活できることから、営業許可が下りた後、実際の営業の収支を見極めた上で、役員給与月額を決定し、来年1月頃から支給開始できればと気楽に考えているようです。
 仮に、B社長の意向のとおり、来年1月から役員給与の支給を開始した場合、その役員給与は定期同額給与として損金算入することができるのでしょうか。
 設立1期目の定期同額給与の一般的な取扱いを含めてご教示ください。

【回答】

1 定期同額給与とは、その支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与(定期給与)で、当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの(法法34〔1〕一)をいいますが、定期給与の額が事業年度の中途において改定された場合については、その改定が次のイないしハのいずれかに該当する場合に限り、改定前と改定後のそれぞれの定期給与が定期同額給与に該当するものとして取り扱われます(法令69〔1〕一)。
イ 当該事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3月を経過する日まで(継続して毎年所定の時期にされる改定で3月経過後にされることについて特別の事情があると認められる場合にあっては、その改定の時期)にされた、いわゆる通常改定
ロ 役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情に基づく、いわゆる臨時改定事由による改定
ハ 経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由による、いわゆる業績悪化事由による改定(減額改定に限る。)
2 ところで、会社と役員との関係は委任契約関係とされており(会社法330)、その委任契約とは、「会社(株主)が役員に対して会社の経営を委託し、役員がその職務執行の対価として報酬を得ることを約する契約」と解されますから、会社においては、役員が就任したときから報酬(役員給与)を支払う義務が生じることになります。
 したがって、会社の設立時に役員に就任した者に対しては、基本的には実質的な営業開始時期や収益の発生のいかんに関わらず、設立後最初の支給時期までに株主総会等において報酬額(「支給額0」の場合を含め)を決議する必要があるものと考えられます。
 そして、新設法人において役員給与の支給開始が遅れる場合の特例等は設けられていないため、その役員給与の損金算入の可否については、上記1の定期同額給与の通則に則して判定することになるものと考えられますから、新設法人における事業年度の中途における役員給与の支給開始は、支給額0円から支給開始後の支給額への「期中における増額改定」が行われたものとみなして、定期同額給与の該当性を判定するのが相当と考えられます。
 そうすると、設立日から3月以内に役員給与の支給開始の決定がなされる場合は、通常改定に該当することになり、支給開始後の支給額は定期同額給与に該当するものと考えられます。
 お尋ねのケースのA社においては、設立から半年経過後の翌年1月から支給を開始するとのことですが、この場合は通常改定に該当しませんので、その支給額の損金算入が認められるためには、臨時改定事由すなわち「役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情」に該当する事情等の存在が不可欠となります。
 しかしながら、B社長の意向としてお示しいただいたような収益の発生や営業収支の状況等に関する事情は、臨時改定事由に該当するものとは認められませんから、翌年1月から3月(事業年度末月)までの支給額は定期同額給与に該当せず、損金算入できないものと考えられます。
 なお、例えば、実質的な営業開始により、役員としての職務に大幅な拡大や変容等が生じ、これらの拡大・変容等が上記規定にいう「職務の内容の重大な変更」等に該当するならば、臨時改定事由に該当すると認められることも考えられますが、この点は事実認定の範疇となることから、確たる判断はできません。
 以上を踏まえますと、新設法人においては、実質的な営業開始までの資金繰りや収支予測の困難性等もあって、役員給与の支給開始が遅れるケースが散見されるところですが、役員給与の損金算入を可能とするためには、設立後(あるいは設立以前から)可能な限りの収支予測等を踏まえて、速やかに適正な役員給与の額を決定し、極力、設立後3月以内に支給を開始すべく、準備を行うことが肝要と考えられます。

【関連情報】

《法令等》

法人税法34条1項1号
法人税法施行令69条1項

【収録日】

平成24年11月27日


 
注1: 当Q&Aの掲載内容は、一般的な質問に対する回答例であり、TKC全国会及び株式会社TKCは、当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。個別の案件については、最寄りのTKC会員にご相談ください。
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