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《税務Q&A》

情報提供 TKC税務研究所

【件名】

相続財産の譲渡所得の計算上概算取得費控除と相続税額の取得費加算の併用の可否

【質問】

 甲は、平成30年1月29日、被相続人乙(父親)の死亡により、土地その他の遺産を相続した。同年11月29日に相続税の申告期限が到来するので、相続税額の総額7,000万円余の期限内申告をした。その際、相続税額のうち2,000万円余は申告と同時に納付するが、残りの相続税額5,000万円の納付は5年間の年賦延納によることとし、延納の申請をした。
 甲は、その後延納中の相続税を繰上げ納付するために相続財産の換金処分を決意し、売却先を捜していたところ買手が見つかったので、令和元年6月30日、相続によって取得した土地の一部を7,000万円で売却し、その代金から、延納中の相続税額5,000万円の全額を繰上げ一括納付した。
 相続税の申告期限から3年以内に相続財産を譲渡し、その譲渡代金を相続税の支払いに充てた場合には、その譲渡所得の計算上、実際の取得費の額に、課税された相続税額の一部を加算したものを取得費とみなして控除することにより、譲渡所得税を軽減する特例があるという。
 ところで、甲の場合は、譲渡した相続財産(土地)は祖父が取得し、相続により承継されてきたものなので、その取得価額が分からない。
 そのため、譲渡所得税の申告では、概算取得費控除の特例(措法31の4)を適用する必要があるが、相続土地の譲渡所得の計算の際、相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(措法39。以下「相続税額の取得費加算の特例」という)を適用しようとすると、一の土地等の譲渡所得の計算の上で、概算取得費控除の特例と相続税額の取得費加算の特例を併せて適用することが必要になる。
 しかし、一の土地等の譲渡所得金額の計算上、概算取得費控除の特例と相続税額の取得費加算の特例を併せて適用するとすれば、租税特別措置としての特典を二重に受けることになるとか、概算取得費に相続税額の一部を加算して取得費を大きくするのは取得費の二重控除に当たるとかいわれて問題が発生することにならないか。

【回答】

 相続財産である土地を相続開始後一定期間内に譲渡したことによる譲渡所得の金額の計算において、概算取得費の額に課税された相続税額の一部を加算したものを譲渡した相続土地の取得費とみなして控除することは、法の想定内であると考えられるので、概算取得費控除の特例の要件、相続税額の取得費加算の特例の適用要件をそれぞれ満たしているのであれば、これらの特例を併用しても、特に問題は生じません。

【関連情報】

《法令等》

租税特別措置法31条の4
租税特別措置法39条
租税特別措置法施行令25条の16
所得税法33条
所得税法38条
所得税法61条

【解説】

(1)規定の文理上の視点から
 相続財産の譲渡に係る譲渡所得の計算上、概算取得費控除の特例と相続税額の取得費加算の特例を併用することが、特例の濫用として排除されるべきことであるかどうかという点については、規定の文理上の視点からすれば、次のようにいうことができます。
 相続財産の譲渡所得に係る相続税額の取得費加算の特例を規定した措置法第39条第1項は、「当該相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産を譲渡した場合における所得税法第33条第3項の規定の適用については、同項に規定する取得費は、当該取得費に相当する金額に当該相続税額のうち政令(措令25の16)で定める金額を加算した金額とする」と規定しています。
 この場合「所得税法第33条第3項に規定する取得費」とは、本来の取得費(譲渡資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の合計額。所法38〔1〕)を指すのですが、譲渡資産が昭和27年12月31日以前から所有する土地建物等(運用上は、昭和28年1月1日以後に取得した土地建物等で長期所有のものを含む)である場合には、所得税法第38条の別段の規定である措置法第31条の4に規定する概算取得費を指すことになります。
 そのため、譲渡した相続財産(土地建物等)が昭和27年12月31日以前に取得したものであるときは、法の定めるところにより概算取得費相当額に課税された相続税額の一部を加算した額を「取得費」とみなして控除すべきことになります(措法39〔1〕)
 なお、この場合の概算取得費相当額に課税された相続税額の一部の加算は、法の定めに従ってする計算ですから、特例の濫用などといった問題が生じる余地はありません。
(2)概算取得費控除制度の意義
イ 土地建物その他の資産の譲渡による譲渡所得の金額とは、一般的には、譲渡収入金額から譲渡資産の取得費及び譲渡費用の額を控除した残額をいいます(所法33〔2〕)。この場合、「取得費」とは、譲渡資産の取得に要した金額(取得価額)と設備費及び改良費の額の合計額(譲渡資産が減価資産である場合には、当該合計額から減価償却費等の額を控除した残額)をいいます(所法38〔1〕〔2〕)。
ロ 概算取得費控除の特例(措法31の4)は、譲渡資産の取得時期が古いため記録が失われた等により実際の取得費(実額)が分からないといった場合の便宜を図ることを目的として設けられた譲渡所得の計算上の簡便法で、取得費についての原則的規定である所得税法第38条(第61条)に対する別段の定めに当たるものです。そのため、長期所有の譲渡資産の譲渡者であれば誰でも適用すべき一般的な特則であって、特定範囲の納税者を対象とする租税特別措置としての特典(税の減免措置)を定めたいわゆる「課税の特例」とは、性質を異にしています。
 概算取得費控除制度の下では、昭和27年12月31日以前から有する土地建物等の譲渡所得の金額を計算する場合に控除する取得費は、原則として、実際の取得費に代えて概算取得費(譲渡収入金額の5%相当額)を控除することが制度上の原則となっています。
 なお、実際の取得費の額の方が、概算取得費相当額よりも多いときは実際の取得費を控除して所得計算することを認めるのはいうまでもありません。
 したがって、課税実務では、長期所有の譲渡資産の譲渡所得の計算においては、所得税法第33条第3項に規定する「取得費」は、所得税法第38条又は第61条に規定する本来の取得費(実額)によるものと、措置法31条の4に規定する概算取得費によるものとが、併存していることになります。
(3)相続税額の取得費加算制度の意義
 相続税額の取得費加算の特例は、相続財産の換金処分をしてその売却代金を相続税の納付に充てるような場合は、相続税の負担と相続財産の売却に対する譲渡所得税の負担が重なるため著しい重税感を感じることから、その重税感を緩和すべく設けられている譲渡所得税の減免措置(特例)です。
 相続税額の取得費加算の特例は、具体的には、相続又は遺贈により取得した財産を相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内に譲渡することを条件として、その譲渡所得の金額の計算上、上の(2)で述べた取得費(実際の取得費又は概算取得費)に、相続又は遺贈により取得した財産に対する相続税額のうち、〔1〕譲渡した資産が土地等である場合には、その者が相続又は遺贈により取得した全ての土地等に対応する金額を、〔2〕譲渡した資産が土地等以外の資産である場合には、譲渡した資産に対応する金額を、それぞれ加算した金額をもって「譲渡した資産の取得費」として控除するというものです。
(注)取得費に加算する相続税額は、譲渡した相続財産が土地等であるか土地等以外の資産であるかの別により、次の算式により算定する(措令25の16)。
 1.譲渡資産が土地等である場合
  その者の相続税額×(その者の相続税の課税価格の計算の基礎に算入された土地等の価額の合計額/その者の相続税の課税価格+その者の債務控除額)
 2.譲渡資産が土地等以外の資産である場合
  その者の相続税額×(その者の相続税の課税価格の計算の基礎に算入された譲渡資産の価額/その者の相続税の課税価格+その者の債務控除額)
 このように、相続税額の取得費加算の特例は、政策的な配慮から、本来譲渡所得の計算とは無関係な「相続財産に課された相続税額」を本来の取得費(実際の取得費又は概算取得費)に加算した額を取得費とみなして相続財産の譲渡所得の計算上控除することとし、もって相続開始後短期間内に相続財産の売却処分を行う相続人等の税負担の緩和を図ろうとする租税特別措置(税制上の特典)であるということができます。
 ただし、空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例(措法35〔3〕)の適用とは、選択適用とされ、その被相続人居住用家屋又は、その敷地等の譲渡について、既に「空き家の特例」の適用を受けていないことを要します。

【収録日】

令和 2年 3月 6日


 
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