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《税務Q&A》

情報提供 TKC税務研究所

【件名】

借地権の無償返還の可否(無償返還に関する届出書未提出の場合)

【質問】

 A社は服飾雑貨店を営む法人です。ここ数年は売上が伸び悩み、ECサイトとの競合や不良在庫の処理から債務超過となっています。
 A社の店舗用木造建物(以下「本件建物」いう。)は、A社の代表取締役甲が所有する土地の上に、50年前に建てたものです。A社と甲の間の賃貸借契約締結時には、A社から甲への権利金の支払いはなく、したがってA社では借地権の計上もありません。当初は法人税法基本通達13-1-2における相当な地代を支払っていましたが、賃借料は増額せず、業績悪化もあってここ数年の賃借料は固定資産税相当額となっています。なお、土地の無償返還に関する届出書は提出していません。
 A社は本件建物を改修し、店舗から転用も考えましたが、雨漏りや耐震基準を満たさない等、老朽化が激しい本件建物を改修・転用するためには相当な資金を要すること、取り壊し費用も多額となることから、賃貸借契約を解除し、更地としてではなく現況のまま甲に売却することを考えています。売却価額は固定資産税評価額とし、借地権の価額は全く考慮していません。
 A社からの質問は、(1)今からA社と甲の連名で土地の無償返還に関する届出書を提出することで、無償返還(無償譲渡)は認められるか、(2)届出書による無償返還が認められない場合、A社が甲に借地権を無償譲渡することから、その経済的利益(借地権相当額)は代表取締役甲に対する役員給与となるか、というものです。

【回答】

1 土地の無償返還に関する届出書
  土地の賃貸借契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められており、かつ、契約当事者の連名により「土地の無償返還の届出書」を、遅滞なく当該法人の納税地の所轄税務署長に届け出たときは、借地権利金の認定は行われず、相当地代の認定課税にとどめることとされています(法基通13-1-7)。
  この場合の「遅滞なく」とは、土地の賃貸借の実行後相当の期間内に行うことを意味するものと考えられ、通常は借地権の設定等があった後最初に到来する確定申告期限までと解されています。
  なお、「相当の地代」については、土地の更地価額(権利金を収受しているとき又は特別の経済的な利益の額があるときは、これらの金額を控除した金額)に対しておおむね「年8パーセント」程度とされていますが(法基通13-1-2)、取扱通達(平成1.3.30直法2-2)により、おおむね年6パーセント程度の地代であるときは、その地代は「相当の地代」に該当するものとされています(法基通13-1-2、平成元年3月30日直法2-2通達)。
  なお、ここでいう「土地の更地価額」については、課税上弊害がない限り、次のいずれかの価額によることも認められています(法基通13-1-2(注)1)。
(1)当該土地につきその近傍類地の公示価格等から合理的に算定した価額。
(2)いわゆる相続税評価額(当分の間、相続税評価額又は当該価額の過去3年間の平均額とされています。)。
2 借地権の無償譲渡等
  法人が借地の上に存する自己の建物等を借地権の価額の全部又は一部に相当する金額を含めない価額で譲渡した場合又は借地の返還に当たり、通常当該借地権の価額に相当する立退料その他これに類する一時金(以下「立退料等」という。)を授受する取引上の慣行があるにもかかわらず、その額の全部又は一部に相当する金額を収受しなかった場合には、原則として通常収受すべき借地権の対価の額又は立退料等の額と実際に収受した借地権の対価の額又は立退料等の額との差額に相当する金額を相手方に贈与したものとして取扱うとされています。
  ただし、その譲渡又は借地の返還に当たり通常収受すべき借地権の対価の額又は立退料等の額に相当する金額を収受していないときであっても、その収受をしないことが次に掲げるような理由によるものであるときは、これを認める(法基通13-1-14。以下「本通達」という。)としています。
(1)借地権の設定等に係る契約書において将来借地を無償で返還することが定められていること又はその土地の使用が使用貸借契約によるものであること(いずれも13―1―7に定めるところによりその旨が所轄税務署長に届け出られている場合に限る。)
(2)土地の使用の目的が、単に物品置場、駐車場等として土地を更地のまま使用し、又は仮営業所、仮店舗等の簡易な建物の敷地として使用するものであること。 
(3)借地上の建物が著しく老朽化したことその他これに類する事由により、借地権が消滅し、又はこれを存続させることが困難であると認められる事情が生じたこと。
  そして、本通達の解説書(税務研究会出版局発行「十一訂版法人税基本通達逐条解説」1475頁)では、次のとおり記載されています。
  「本通達の(3)においては、借地権の消滅の場合に借地の無償返還が認められるほか、借地上の建物が著しく老朽化したことその他これに類する事由により、借地権が消滅し、又は借地権を存続させることが困難であると認められる事由が生じた場合にも、その無償返還を認めることが明らかにされている。例えば、経済環境の変化等により、従前の借地上の建物をそのまま利用することが経済的に困難となり、仮に他に転用するとすれば、相当の改造、改修その他の資本的支出をしなければならない状況において、このような再投資をしても、さらに営業を継続することについて採算の見通しが全く立たないため、やむを得ず借地契約を解消するというような事例とか、従来、従業員宿舎用地等として借地していた状況において、工場移転に伴って従業員宿舎が不要になったので、これを取り壊して土地を返還するというような事例が、ここでいう借地権を存続させることが困難であると認められる事情に当たると考えてよいと思われる。
いずれにしても、借地契約の内容によっては、借地の目的の変更を認めない限りは、その権利を他に譲渡しようとしても買手が付かないと考えられる事例も少なくないのであるから、経済的合理性の面から見て、借地契約の存続が困難であるという場合には、ある程度弾力的に無償返還を認めようというのが本通達の(3)の考え方である。」
 3 ご質問に対する回答
(1)今から土地の無償返還に関する届出書を提出することの可否
   A社と甲が連名で今から土地の無償返還に関する届出書を提出したとしても、A社の本件建物の建設から50年経過していることから、「遅滞なく」とは言えず、認められないものと考えられます。
(2)A社が甲に借地権を無償譲渡することから、その経済的利益(借地権相当額)は代表取締役甲に対する役員給与となるか。
   A社は土地の無償返還に関する届出書を提出していません、また、賃貸借契約の当初は相当の地代を支払っていた事実がありますので、土地の使用が使用貸借契約によるものでもありません。したがって、本通達(1)には該当しません。
   A社は建物を店舗として50年間使用しており、本通達(2)の土地を更地のまま使用し、又簡易な建物の敷地として使用するものでもありません。
   ただ、ご質問の場合には、建築後50年が経過し、著しく老朽化していること、また、A社が業績悪化により賃貸借契約を解除し、取り壊しをせずに本件建物を甲に売却するという専らA社の事情によるものであり、本通達(3)の「借地上の建物が著しく老朽化したことその他これに類する事由により、借地権が消滅し、又はこれを存続させることが困難であると認められる事情が生じたこと」に該当するものとして、借地権の無償譲渡(無償返還)が認められるものと考えられます。
   借地権の無償譲渡が認められた場合には、経済的利益の移転はなく、したがって、役員給与とされることもないと考えられます。

【関連情報】

《法令等》

法人税基本通達13-1-2
法人税基本通達13-1-7
法人税基本通達13-1-14
法人税の借地権課税における相当の地代の取扱いについて(平成元年3月30日直法2-2)

【収録日】

令和 7年10月27日


 
注1: 当Q&Aの掲載内容は、一般的な質問に対する回答例であり、TKC全国会及び株式会社TKCは、当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。個別の案件については、最寄りのTKC会員にご相談ください。
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