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《税務Q&A》

情報提供 TKC税務研究所

【件名】

売上対価の返還等を行った事業者のインボイス制度対応と税額控除

【質問】

 当社は、飲食料品や酒類の卸売業を営む適格請求書発行事業者です。
 当社は、販売先の小売業者に対して月まとめで販売代金の請求を行っていますが、半年ごとに販売代金に応じた割戻しを行ない、割戻金の額を翌月請求の販売代金から控除した残額を指定の銀行口座に振り込んでもらうこととしています。また、販売代金振込みの際は、振込手数料を差し引いて振り込んでもらうこととしています。
 当社の場合、割戻金や振込手数料についてはどのようにインボイス制度に対応すればよいでしょうか。また、売上対価の返還等に係る税額控除を行う場合にはどのようにすればよいでしょうか。

【回答】

 課税資産の譲渡等を行った相手方(販売先)にその金額に応じて支払う割戻金は、売上対価の返還等に該当します。
 また、販売先が課税資産の譲渡等に係る売掛金を振り込む際に売掛金の額から差し引く振込手数料相当額も売上対価の返還等に該当することになります(注)。
(注)振込手数料相当額については、次の処理が認められています。
〔1〕売手の売上対価の返還等とする。
   この場合、売手の売上対価の返還等に対応する金額は、買手の仕入対価の返還等となります。
   また、買手が負担した振込手数料は、買手が金融機関から受けた役務の提供の対価として買手の課税仕入れに該当することになります。
〔2〕売手の課税仕入れとする。
   この場合、売手における振込手数料相当額の課税仕入れの相手方は、買手又は買手が振込を行った金融機関となります。
   なお、課税仕入れとして処理した場合は、仕入税額控除の規定に従って取り扱うことになります。
1 インボイス制度への対応
(1)原則
 適格請求書発行事業者が課税資産の譲渡等を受けた他の課税事業者に対して売上対価の返還等を行う場合は、その売上対価の返還等を受ける他の課税事業者に対して、所定の事項を記載した適格返還請求書を交付するとともに、交付した適格返還請求書の写し(適格返還請求書に記載すべき事項に係る電磁的記録を提供した場合はその電磁的記録)を保存する義務があります。
(注)適格請求書は、課税資産の譲渡等を受ける他の課税事業者から交付を求められたときは交付しなければならないとされています。したがって、他の事業者が課税事業者であっても、交付を求められていないときには、交付するかどうかは適格請求書発行事業者に任されていると解されます。
   これに対して、適格返還請求書は、課税資産の譲渡等を受けた他の課税事業者に対して売上対価の返還等を行う場合は、当該他の課税事業者から交付を求められることで交付の義務が生ずるという規定になっていませんから、当該他の課税事業者から交付を求められていない場合でも適格返還請求書を交付しなければならないものと考えます。
(2)適格返還請求書を交付することが困難な場合
 適格請求書発行事業者が行う事業の性質上、売上対価の返還等に際し適格返還請求書を交付することが困難な場合は、適格返還請求書の交付義務が免除されます。
 具体的には、次の課税資産の譲渡等に係る売上対価の返還等が該当します。
〔1〕税込価額3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送
〔2〕出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売(出荷者から委託を受けた受託者が卸売の業務として行うものに限ります。)
〔3〕生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売(無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限ります。)
〔4〕税込価額3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等
〔5〕郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限ります。)
(3)売上対価の返還等に係る税込価額が1万円未満の場合
 売上対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合には、その適格返還請求書の交付義務が免除されます。
 この特例は、適用期限のない恒久的な措置であり、全ての適格請求書発行事業者が適用対象となります。貴社においても、この特例が適用されることはあると思われます。
 なお、売手が負担する振込手数料相当額を売上値引きとして処理している場合にも、適格返還請求書の交付義務免除の対象となります。
(注)売手が負担する振込手数料を支払手数料、すなわち課税仕入れとして処理している場合には、そもそも適格返還請求書の交付は必要ありませんが、支払手数料として仕入税額控除を行うためには、金融機関や取引先からの支払手数料に係る適格請求書が必要となります。ただし、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に行う振込に係る支払手数料(税込み)の額が1万円未満の場合には、適格請求書等を保存することなく、帳簿のみの保存で仕入税額控除を認める経過措置(少額特例)を適用できることもあります。
   なお、売手が負担する振込手数料を、会計上は支払手数料として処理している場合でも、消費税法上は売上対価の返還等として取り扱うことは可能です。その場合は、帳簿に売上対価の返還等に係る事項を記載し、保存することが必要となります。
2 売上対価の返還等をした場合の税額控除
 課税事業者が国内において行った課税資産の譲渡等につき、売上対価の返還等をした場合には、その売上対価の返還等をした日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額からその売上対価の返還等の金額に係る消費税額を控除します。
 【控除税額の計算方法】
  売上対価の返還等の金額に係る消費税額=返還等する税込価額×7.8/110
 (注)軽減対象課税資産の譲渡等について売上対価の返還等を行う場合は、6.24/108を乗じます。
(1)適用要件
 売上対価の返還等の金額に係る消費税額について控除を受けるためには、売上対価の返還等をした金額の明細を記録した帳簿を課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間保存しなければなりません。
(注)適格請求書発行事業者は、売上対価の返還等を行う場合には適格返還請求書の交付とその写しの保存が義務付けられますが、これは適格請求書発行事業者としての義務であり、売上対価の返還等をした場合の消費税額の控除は、適格請求書発行事業者以外の課税事業者も適用対象であることから、売上対価の返還等の金額に係る消費税額の控除については、区分記載請求書等保存方式における場合と同様の適用要件が定められています。
   したがって、適格請求書発行事業者としては、適格返還請求書の交付義務が免除される1-(2)及び(3)の場合であっても、売上対価の返還等の金額に係る消費税額について控除を受けるためには、帳簿の記録と保存が必要となります。
 【帳簿の記載事項】
〔1〕売上対価の返還等を受けた者の氏名又は名称
〔2〕売上対価の返還等を行った年月日
〔3〕売上対価の返還等に係る課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(当該売上対価の返還等に係る課税資産の譲渡等が軽減対象課税資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象課税資産の譲渡等である旨)
〔4〕税率の異なるごとに区分した売上対価の返還等をした金額
(注)帳簿の記載事項については、区分記載請求書等保存方式における場合(28年改正令附則8〔2〕)と異なりません。
(2)売上対価の返還等の金額を控除した後の金額を課税売上げとする場合
 売上対価の返還等を行った場合において、その課税期間に国内において行った課税資産の譲渡等の税率の異なるごとの金額からその売上対価の返還等につき税率の異なるごとに合理的に区分した金額を控除する経理処理を継続して行っているときには、従来から、控除後の金額を基に課税標準額に対する消費税額を計算する処理も認められています。
 貴社がこの取扱いの適用を受けている場合には、消費税法38条1項の規定による控除は適用できませんが、この取扱いは消費税法38条の規定の簡便適用というべきものですから、この取扱いの適用を受けている場合であっても、売上対価の返還等をした金額の明細を記録した帳簿を保存する必要があることに留意する必要があります。

【関連情報】

《法令等》

消費税法38条1項
消費税法38条2項
消費税法38条5項
消費税法57条の4第2項
消費税法57条の4第3項
消費税法57条の4第6項
消費税法施行令58条の2第1項
消費税法施行令58条の2第2項
消費税法施行令70条の9第3項1号
消費税法施行令70条の9第3項2号
消費税法平成28年改正法附則53条の2
消費税法施行令平成28年改正令附則8条2項
消費税の軽減税率制度に関する取扱通達17
消費税法基本通達14-1-8

【収録日】

令和 5年10月30日


 
注1: 当Q&Aの掲載内容は、一般的な質問に対する回答例であり、TKC全国会及び株式会社TKCは、当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。個別の案件については、最寄りのTKC会員にご相談ください。
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