《税務Q&A》
情報提供 TKC税務研究所
【件名】
「支給しない場合があり得る」旨の条件付きの支給額の定め(事前確定届出給与)
【質問】
A社(12月決算法人)は、代表取締役B氏のみを常勤役員とする同族会社です。 A社においては、従前、役員給与は定期同額給与のみで役員賞与の支給はありませんでしたが、当期(令和2年12月期)から初めて役員賞与を支給することとし、令和2年2月末の定時株主総会において、B氏に対する新たな職務執行期間に係る職務執行の対価として令和2年12月15日に100万円の役員賞与を支給する旨を決議した上で、所定の期限までに事前確定届出給与の届出を行う予定です。 ところで、B氏においては「もし当期の業績が振るわない場合は役員賞与の受領を辞退したい」との意思が強いため、その意思を尊重して「当人から受領辞退の申し出があったときは支給しない」旨を支給額の定めに係る議事録に記載することを考えています。 つきましては、万一B氏の事前確定届出給与について受領辞退により支給しないこととした場合の税務上の取扱いをはじめ、留意すべき事項等がありましたらご教示ください。
【回答】
1 事前確定届出給与とは、その役員の職務につき、所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与で、原則として、株主総会等の決議により事前確定給与の定めをした場合における当該決議の日(同日が職務執行開始日後である場合には、職務執行開始日)から1月経過日(同日が会計期間開始日から4月を経過する場合には4月経過日とし、新設法人の場合にはその設立日以後2月を経過する日)までに、納税地の所轄税務署長にその定めの内容に関して所定の事項(事前確定届出給与の支給時期及び各支給時期における支給金額等)を記載した届出をしている場合のその給与をいうとされています(法法34〔1〕二、法令69〔2〕、法規22の3〔1〕)。 この場合、事前確定届出給与としてその事業年度の損金の額に算入される給与とは、所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給するもの、すなわち、支給時期及び支給金額が事前に確定しており、実際にもその定められた支給時期において定められた金額が支給される給与に限られることとされています(法基通9-2-14)。 そのため所轄税務署長へ届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合には、事前に支給額が確定していたものといえないことから事前確定届出給与に該当しないものとなり、それが増額支給であれば増額分だけでなく実際の支給額の全額が損金不算入となり、減額支給であれば実際に支給した金額が損金不算入となります。 しかしながら、ご懸念のケースのように、事前確定届出給与として届け出た給与を支給しなかった場合には、損金算入額自体が零ということになる結果、損金不算入とされる金額もないこととなります。 なお、給与等の支払を受けるべき者が、既に支給期が到来した給与等の受領を辞退した場合には、原則として(支払者の債務超過の状態の継続のため支払不能と認められる場合を除き)、その辞退した時においてその支払があったものとして源泉徴収が行われることとされています(所基通181~223共-2)が、給与等の支給期の到来前に辞退の意思を明示して辞退したものに限り、課税しないこととして取り扱われます(所基通28-10)。したがいまして、もし、B氏による事前確定届出給与の受領辞退について源泉徴収を回避するためには、その支給期の到来前に辞退の意思を明示する必要がありますので、念のために申し添えます。2 危惧されるのは、「当人から受領辞退の申し出があったときは支給しない旨を支給額の定めに係る議事録に記載する」との点であり、その場合には、「確定額を支給する旨の定め」を欠くものとして、事前確定届出給与の該当性自体が否定される可能性が懸念されます。 すなわち、上記1のとおり、事前確定届出給与とは、所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給するもの、言い換えれば、支給時期及び支給金額が事前に確定していることが前提となるところ、「当人から受領辞退の申し出があったときは支給しない」旨の定めが措かれる場合には、支給しない場合があり得るものとして「事前確定」を欠くものと認定され、たとえ予定どおり支給された場合であっても、その損金算入が問題視される可能性が否定できないところと考えられます。 したがいまして、当事者の内心において万一の場合を想定することは差し支えありませんが、お示しのような「事前確定」をなし崩しにする条件を明文の定めに盛り込むことは、無用な問題提起を招きかねず、望ましくないものと考えられます。
【関連情報】
《法令等》
【収録日】
令和 2年 4月21日