《税務Q&A》
情報提供 TKC税務研究所
【件名】
役員の業務上の怪我に係る治療費を法人が負担した場合の取扱い
【質問】
A社は建築業を営む法人ですが、その代表取締役B氏は、日頃から現場において作業の指揮監督を行うかたわら、難度の高い作業については自ら従事することがあります。 この度、B氏は、現場における作業中の材料落下事故により大腿骨骨折の重傷を負ったことから、救急搬送された病院において緊急手術を受けて入院加療した結果、事故から半年経過してようやく全快しました。 この間、手術費用及び入院費用をはじめ治療費として約300万円が掛かりましたが、B氏は代表取締役であるため労災保険の適用がなく、また任意の傷害保険等にも加入していなかったことから、治療費の全額をA社が負担せざるを得ませんでした。 そこで質問ですが、この治療費の負担は、役員等のために個人的費用を負担したこととされ、B氏に対する給与として取り扱われるのでしょうか。 また、A社は、B氏に対して今回の作業中の怪我に係る見舞金として、50万円を支払いましたが、この見舞金に係る取扱いについても併せてご教示ください。
【回答】
1 役員等のために個人的費用を負担した場合におけるその費用の額に相当する金額については、その役員等に対する経済的利益の供与に当たり給与として取り扱われます(法基通9-2-9(10))が、お尋ねはこの取扱いを懸念されたものと解されます。 しかしながら、この取扱いは、法人が合理的な理由もなく役員等のために個人的費用を負担した場合を前提とするものと解されますから、法人がその負担をすることに合理性若しくはやむを得ない理由が認められる場合には、取扱いの適用外となるものと考えられます。2 ところで、労働基準法は、労働者が業務上負傷し、又は疾病に罹った場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない旨規定しています(労働基準法76)。 これを受けて、健康保険法では、労働者の「業務以外の事由」による疾病、負傷、死亡等に関して保険給付を行う旨を定め(健康保険法1)、業務上災害については健康保険による給付を受けることを禁止しています。 このため、通常の労働者の業務上の災害については、労働者災害補償保険法に基づく労災保険が適用され、法人が負担した治療費は、事実上、労災保険が支給されるまでの間、立替金等として処理されることになります。 しかしながら、労災保険は「労働者災害補償保険法」という名称のとおり、「労働者」に適用される保険であることから、使用人兼務役員等として「労働者」となり得ない代表取締役等については、適用されません。 また、健康保険法においては、被保険者が法人の役員であるときは、その被保険者のその法人としての業務に起因する疾病、負傷又は死亡に関して保険給付は行わない(健康保険法53の2)旨規定しています。 このため、代表取締役が業務遂行上の災害等により負傷した場合には、労災保険も健康保険も適用できないことになりますから、その治療費等をその怪我の原因となった業務を命じた法人が負担することは、やむを得ない事情に基づく合理的な負担と認められ、その負担した治療費等の額は、給与以外の福利厚生費等として法人の損金の額に算入して差し支えないものと考えられます。 したがいまして、お尋ねのケースにおいても、代表取締役B氏の怪我がA社の業務遂行上において生じたものである限り、B氏の怪我を治療するために必要な手術費用及び入院費用をA社が負担した場合には、A社の福利厚生費等として損金の額に算入するのが相当と考えられます。3 また、A社がB氏に対して支払う見舞金50万円は、A社の業務の遂行に関連してB氏に与えた心身の損害につき支払う賠償金とも認められますし、B氏にとって「心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金(所法9〔1〕十七、所令30三)」に該当するものである限り、所得税法上非課税となるものと認められますから、法人税法上も福利厚生費若しくは損害賠償金等として損金の額に算入するのが相当と考えられます。
【関連情報】
《法令等》
【収録日】
令和 1年 7月31日