《税務Q&A》
情報提供 TKC税務研究所
【件名】
既存の事業者が新たな事業を開始するために特別に支出する費用の取扱い(開業費か開発費か)
【質問】
A社は食料品販売業を営む法人ですが、創業50年を迎えるに当たって、コンサルティング会社の勧めで、事業の多角化のために賃貸マンション事業を新規事業として立ち上げることになりました。 警備システムの導入費用や近隣の賃貸マンションの需給調査費用など、新たな事業を開始するまでの支出が相当な金額に上ることが判明しました。 コンサルティング会社は、「相当な金額であっても、開業費に該当するので、新規事業開始するまでの特別な支出については、開業費として任意償却(一括償却)ができる。」と説明していますが、本当に開業費として任意償却することができるのでしょうか。
【回答】
1 法令等について(繰延資産・開業費及び開発費)(1)開業費とは税務上の繰延資産の1つです。そして繰延資産とは、法人が支出する費用のうち支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもので政令で定めるものをいうこととされ(法法2二十四)、政令(法令14)では開業費など6つ(資産の取得に要した金額とされるべき費用及び前払費用を除きます。)が規定されています。 政令においては、開業費とは「法人の設立後事業開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用をいう。」とされています(法令14〔1〕二)。ここでいう「事業」とは、当該法人の設立後に初めて開始する事業を指し、新たな事業は含まれないと考えられます。(2)ところで、開業費と類似した繰延資産に開発費があります。開発費とは「新たな技術若しくは新たな経営組織の採用、資源の開発、市場の開拓のために特別に支出する費用をいう。」(法令14〔1〕三)とされていますが、平成19年度税制改正(以下「税制改正」という。)前においては、開発費には新たな事業の開始のために特別に支出する費用が含まれていました。この税制改正は会計上繰延資産とされるものと整合的になるように整備が行われたものとされています(税制改正の解説、法人税法の改正356頁)。企業会計における開発費の取扱いをみると、その範囲は、新技術又は新経営組織の採用、資源の開発、市場の開拓等のために支出した費用、生産能率の向上又は生産計画の変更等により、設備の大規模な配置替えを行った場合等の費用とされ、ただし経常費の性格をもつものは含まれないとされており、法人税法に定める開発費を包含したものとなります。 また、企業会計においては、開発費について支出時に費用(売上原価又は販売費及び一般管理費)として処理することとされていますが、繰延資産に計上することもできることとされ、繰延資産に計上する場合には、支出のときから5年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却しなければならないこととされており、法人税法と同様に支出した事業年度の費用とするか否かは法人の任意とされています。(繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い(平成22年2月19日実務対応報告第19号)3(5))。(3)繰延資産のうち開業費及び開発費の償却限度額については、その繰延資産の額(既にした償却の額で各事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入されたものがある場合には、当該金額を控除した金額)とされ、いわゆる任意償却が認められています(法令64〔1〕一)。2 質問に対する回答 A社は、既に食料品販売業を開業し創業50年を迎えて新たな事業を立ち上げることとなり、相当な支出が見込まれるとのことですので、その支出は上記1(1)のとおり開業費には該当しないと考えられます。 また、新たな事業のために特別に支出する費用の内訳が不明ですが、仮に警備システム導入費用などの資産の取得に該当するものがある場合には、法人税法上の繰延資産には含まれず、所定の減価償却等を行うものと考えられます。 なお、近隣の賃貸マンションの需給調査費用など、市場の開拓等のために支出した費用等に該当するものがある場合には、その金額は上記1(2)の開発費として任意償却が認められるものと考えられます。 いずれにしましても、ご質問の新たな事業の開始のために特別に支出する費用は、開業費としての任意償却はできないこととなります。
【関連情報】
《法令等》
【収録日】
令和 6年 9月19日