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《税務Q&A》

情報提供 TKC税務研究所

【件名】

賃上げ・生産性向上のための税制の概要と中小企業者等における上乗せ措置の適用

【質問】

 3月決算で中小企業者等に該当するA社は、平成31年3月期において賃上げ・生産性向上のための税制の適用を考えています。
 同税制には、「全法人対象」と「中小企業者等の特例」があると聞きましたが、その制度の概要と、対象法人が中小企業者等に該当するときに、選択適用ができる場合があるのかどうか、具体的な事例でご教示いただけませんでしょうか。

【回答】

1 「賃上げ・生産性向上のための税制」(措法42の12の5)は、平成30年度税制改正において、旧所得拡大促進税制(旧措法42の12の5)を改編したもので、条文上、「全法人対象」(措法42の12の5〔1〕)と「中小企業者等の特例」(同条〔2〕)に区分されます。
 (1)「全法人対象」の制度は、〔1〕賃金要件と〔2〕設備投資要件を満たした場合に、「雇用者給与等支給額-比較雇用者給与等支給額」の15パーセントを限度に税額控除が受けられるというものです。
  この場合の〔1〕賃金要件については、「雇用者給与等支給額>比較雇用者給与等支給額」であるときに、「(A-B)/B≧3パーセント」(※A:継続雇用者給与等支給額、B:継続雇用者比較給与等支給額。以下同じ。)である場合とされています(措法42の12の5〔1〕一)。継続雇用者とは、原則として法人の適用年度及び当該適用年度開始の日の前事業年度等の期間内のすべての月に給与等の支給を受けた国内雇用者をいいますが(措法42の12の5〔3〕六かっこ書き)、その国内雇用者は、雇用保険法に規定する一般被保険者に限るものとし、継続雇用制度の対象である者を除くこととされています(措令27の12の5〔13〕かっこ書き)。
  また、〔2〕設備投資要件については、「国内設備投資額≧当期償却費総額×90パーセント」である場合とされています(措法42の12の5〔1〕二)。
  これにはさらに上乗せ措置があり、「(C-D)/D≧ 20パーセント」(※C:教育訓練費の額、以下同じ。D:比較教育訓練費の額(適用事業年度より前2年以内に開始した各事業年度の教育訓練費の平均額。))である場合に、税額控除率が5パーセント上乗せされ、20パーセントを限度に税額控除が受けられることになります(措法42の12の5〔1〕三)。
  控除税額については、全体として、法人税額の20パーセントが上限となります(措法42の12の5〔1〕後段)。
 (2)「中小企業者等の特例」の制度は、〔1〕賃金要件を満たした場合に、「雇用者給与等支給額-比較雇用者給与等支給額」の15パーセントを限度に税額控除が受けられるというものです。
  この場合の〔1〕賃金要件については、「雇用者給与等支給額>比較雇用者給与等支給額」であるときに、「(A-B)/B≧1.5パーセント」である場合とされています(措法42の12の5〔2〕)。
  これにはさらに上乗せ措置があり、〔1〕賃金要件の増加割合が2.5パーセント以上であるときに、〔3〕教育訓練費要件か〔4〕証明要件のいずれかを満たした場合に、税額控除率が10パーセント上乗せされ、25パーセントを限度に税額控除が受けられることになります(措法42の12の5〔2〕一、二)。
  この場合の〔3〕教育訓練費要件については、「(C-E)/E≧ 10パーセント」(※E:中小企業比較教育訓練費の額で、要するに前期の教育訓練費の額。)である場合とされています(措法42の12の5〔2〕二イ)。また、〔4〕証明要件については、経営力向上計画に記載された経営力向上が確実に行われた旨の証明がなされる場合とされています(措法42の12の5〔2〕二ロ)。
  この場合も、控除税額については、全体として、法人税額の20パーセントが上限となります(措法42の12の5〔2〕後段)。
2(1)このように、「全法人対象」と「中小企業者等の特例」の場合を比較しますと、原則措置については、「雇用者給与等支給額-比較雇用者給与等支給額」の15パーセントを限度に税額控除が受けられる点は両方とも同じですが、適用要件は、〔1〕賃金要件は「全法人対象」の場合には3パーセント以上(「中小企業者等の特例」の場合は1.5パーセント以上)と差が付けられていますし、〔2〕設備投資要件は「全法人対象」の場合にのみ課されていますから、「中小企業者等の特例」が優遇されていることがわかります。
 (2)一方、上乗せ措置は、「中小企業者等の特例」の場合、〔1〕賃金要件について「全法人対象」の基準に近い2.5パーセント以上という基準が設けられているものの、〔3〕教育訓練費要件については、前期の教育訓練費の額のみで判定すればよく(「全法人対象」の場合には適用事業年度より前2年以内に開始した各事業年度の教育訓練費の平均額で判定する)、これを満たさない場合でも「全法人対象」にはない〔4〕証明要件とのいずれかを満たせばよいとされており、また、上乗せ措置を適用した場合の税額控除率は、「全法人対象」が20パーセント、「中小企業者等の特例」が25パーセントですから、やはり優遇されていると見ることができます。
  適用法人が中小企業者等に該当する場合には、「中小企業者等の特例」の「賃上げ・生産性向上のための税制」を適用することが一般的であり、かつ、有利でもありますが、「全法人対象」の要件とは基準が異なっているために、場合によっては「中小企業者等の特例」の要件は満たさないが「全法人対象」の要件であれば満たすという場合が考えられます。そして、「賃上げ・生産性向上のための税制」の規定上、中小企業者等に該当する法人でも「全法人対象」の制度を適用することは排除されていません。
  この点、この上乗せ措置については、〔3〕教育訓練費要件を見ますと、「全法人対象」が「(C-D)/D≧ 20パーセント」、「中小企業者等の特例」が「(C-E)/E≧10パーセント」という算式ですから、教育訓練費の支出状況によっては、上記のように、中小企業者等に該当する法人が、「中小企業者等の特例」の〔3〕教育訓練費要件を満たせない場合でも、「全法人対象」の〔3〕教育訓練費要件であれば満たせるという場合があります。
  例えば、中小企業者等に該当するある法人の教育訓練費が、当期210、前期200、前々期110であった場合を考えますと、「中小企業者等の特例」の〔3〕教育訓練費要件については、「(C-E)/E≧10パーセント」という基準に対して「(210-200)/200=5パーセント」となりますから、要件を満たさないことになります。一方、「全法人対象」の〔3〕教育訓練費要件については、「(C-D)/D≧20パーセント」という基準は「D=(200+110)/2=155」で「(210-155)/155=35.3パーセント」となりますから、〔3〕教育訓練費要件を満たすことになります。
  このように、中小企業者等に該当する法人の場合、「中小企業者等の特例」の〔3〕教育訓練費要件を充足できずに上乗せ措置に係る25パーセントの税額控除率が適用できない場合でも、教育訓練費の額を過去3期検討したときに前期のみが突出して増加している場合など、「全法人対象」の上乗せ措置に係る20パーセントの税額控除率を適用できる場合があるので、注意が必要です。

【関連情報】

《法令等》

租税特別措置法42条の12の5
租税特別措置法施行令27条の12の5

【収録日】

平成30年 9月25日


 
注1: 当Q&Aの掲載内容は、一般的な質問に対する回答例であり、TKC全国会及び株式会社TKCは、当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。個別の案件については、最寄りのTKC会員にご相談ください。
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