《税務Q&A》
情報提供 TKC税務研究所
【件名】
出向者に係る出向元法人及び出向先法人における賃上げ促進税制の適用について
【質問】
A社(資本金の額は5,000万円で税務上の「中小企業者等」に該当します。)は、親会社であるB社の社員を出向契約により従業員として受け入れ、出向者に対する給与等の支給は、出向元法人であるB社が行い、その給与等の支給額に相当する金額をA社からB社に対して給与負担金として支出しています。ところで、A社の業績は、近年、好調に推移していることから、従業員の賃上げに積極的に取り組んでおり、今期から賃上げ促進税制を適用することを検討していますが、その場合、本税制の適用上、出向者に対する給与等の支給額は、どのように取り扱われるのでしょうか。なお、A社では、B社からの出向者についても、他の従業員と同様の賃上げを実施して給与負担金に反映しています。
【回答】
1 令和6年度税制改正後の中小企業者等における賃上げ促進税制において、その適用要件の判定や税額控除限度額の算定の基礎となる「雇用者給与等支給額」とは、法人の適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいい、その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(雇用安定助成金額を除きます。以下「補填額」といいます。)がある場合にはその金額を控除します(措法42の12の5〔5〕九)。 「国内雇用者」とは、「法人の使用人(その法人の役員と特殊の関係のある者等の一定の者を除きます。)のうち当該法人の有する国内の事業所に勤務する雇用者として政令で定めるものに該当するもの」をいい、政令では、「その法人の国内に所在する事業所につき作成された労働基準法第108条に規定する賃金台帳に記載された者とする。」と規定されています(法42の12の5〔5〕二、措令27の12の5〔6〕)。 労働基準法第108条(賃金台帳)では、「使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。」と規定されており、労働基準法上、この賃金台帳には、パート、アルバイト、日雇労働者などの日々雇い入れられる者も記載することとされています(労働基準法施行規則54、55、様式第21号)ので、これらの者も国内雇用者に該当することとなります。2 出向者がいる場合の本制度の適用上の留意点としては、「補填額(他の者から支払を受ける金額)」の範囲について、法人の使用人が他の法人に出向した場合において、その出向した使用人(以下「出向者」という。)に対する給与を出向元法人(出向者を出向させている法人をいう。)が支給することとしているときに、出向元法人が出向先法人(出向元法人から出向者の出向を受けている法人をいう。)から支払を受けた出向先法人の負担すべき給与に相当する金額(「給与負担金の額」)は、補填額に該当することとされています(措通42の12の5-2(注)2(1))。 また、出向先法人が出向元法人へ出向者に係る給与負担金の額を支出する場合において、当該出向先法人の国内に所在する事業所につき作成された労働基準法第108条に規定する賃金台帳に当該出向者を記載しているときには、当該給与負担金の額は、措置法第42条の12の5第3項第4号及び第5号並びに第9号及び第10号の「給与等の支給額」に含まれることとされています(措通42の12の5-3)。 これは、上記の国内雇用者の定義を「当該法人の国内に所在する事業所につき作成された労働基準法第108条に規定する賃金台帳に記載された者」とした法令規定を受けた取扱いと思われます。3 以上の法令・通達の規定を踏まえ、お尋ねの事例の出向者に対する給与等の支給額に係る本税制の適用関係を整理しますと、出向元法人であるB社においては、B社より給与を支給している出向者がB社の賃金台帳に記載されている場合には、当該出向者はB社の国内雇用者に該当することとなり、その給与等の支給額は、B社の雇用者給与等支給額に含まれますが、B社がA社から支払を受けた給与負担金の額は、その給与等の支給額から控除されます。 お尋ねの事例では、出向者に対する給与等の支給額に相当する金額をA社からB社に対して給与負担金として支出している、とのことであり、B社の賃金台帳に出向者が記載されている場合でも、出向者に対する給与等の支給額を全額、給与負担金としてA社が負担し、出向元法人における負担額がない場合には、出向者への給与等の支給額について、B社が本税制を適用する場合の雇用者給与等支給額に含めるべき金額はないこととなります。 なお、B社の賃金台帳に出向者が記載されていない場合には、出向者は、そもそもB社の国内雇用者に該当しませんので、出向者への給与等の支給額について、B社の雇用者給与等支給額に含めることはできないこととなります。4 次に、出向先法人であるA社においては、A社の賃金台帳に出向者を記載しているときは、当該出向者はA社の国内雇用者に該当するものとして、出向元法人であるB社に支出した給与負担金の額がA社の雇用者給与等支給額に含まれることとなる一方、B社のみが出向者を賃金台帳に記載し、A社の賃金台帳に出向者を記載していない場合には、当該出向者はA社の国内雇用者に該当しないこととなりますので、B社に支出した給与負担金の額をA社の雇用者給与等支給額の計算に含めることはできないこととなります。(参考) 出向者に係る出向元法人及び出向先法人における本税制の適用関係については、「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック(令和6年9月20日更新版)経産省」の22頁において比較的分かり易く説明されていますので、ご参照ください。
【関連情報】
《法令等》
【収録日】
令和 7年 5月16日