《税務Q&A》
情報提供 TKC税務研究所
【件名】
執行役員昇任に伴う退職金の打ち切り支給
【質問】
当社は、このたび、執行役員制度を導入し、部長(使用人)を使用人の最上級職の執行役員とし、使用人の在職期間に対応する退職金を打切り支給する予定です。この場合、打切り支給する退職金は、所得税、法人税の課税上、退職給与として取り扱ってよいでしょうか。 一般的に、執行役員から取締役になった者については従業員退職給与の損金算入は認められると思われますが、部長からこのような執行役員になった者については、やや疑義があります。
【回答】
最近、取締役会の活性化と意思決定の迅速化という経営の効率化、あるいは監督機能の強化を図ることなどを目的として、執行役員制度を導入している会社が多くみうけられます。 ところで、執行役員の会社内における地位や役割などは、法令上にその設置の根拠がなく導入企業によって任意に制度設計ができることから、その位置付けは、役員に準じたものとされているものや使用人の最上級職とされるものなど区々となっていると思われますが、一般的に、代表取締役等の担う業務の執行を「執行役員」が担当している場合が多数であると考えられます。 他方、法人税法上における役員とは、法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事および清算人ならびにこれら以外の者で法人の経営に従事しているものとされている(法法2十五、法令7)ことから、執行役員は、「役員」という呼称はついているが、会社法で定められた取締役や執行役、会計参与、監査役といった法定の役員には該当しないと解釈されています。 しかし、取締役兼務の執行役員は、役員に該当すること、また、取締役でない執行役員であっても、たとえば経営会議に参加して会社経営の意思決定に関与しているような者は、「法人の経営に従事しているもの」として、いわゆるみなし役員に該当することがあり得ます。 ご質問のケースにおけるように部長から執行役員になった者は、税務上からみれば依然として使用人のままであるということになります。使用人としての部長からワンランク上の使用人に昇任したに過ぎないということになるわけですから、一般的には、部長から執行役員になった場合の退職金の打ち切り支給の適用はないと考えられます。 ところで、従来、執行役員の位置付けは区々であることから、使用人から執行役員への就任時に退職手当等として支給される一時金が退職所得に該当するか否かは、個々の執行役員制度に応じて、その使用人から執行役員への就任について、最高裁判決(第三小法廷昭和58年12月6日)でいう「特別の事実関係(使用人から執行役員への就任につき、勤務関係の性質、内容、労働条件等において重大な変動があって、形式的には継続している勤務関係が実質的には単なる従前の勤務関係の延長とはみられないなど)」があるか否かによって判断することされていました。 このような実態を踏まえ、税務上も、次の〔1〕から〔4〕の要件のいずれも満たす場合には、単なる従前の勤務関係の延長ではなく、その使用人から執行役員への就任について「特別の事実関係」があると同様に捉えられるとされています。〔1〕雇用契約を終了させ、新たに委任契約が締結される場合には、法律関係が明確に異なること〔2〕執行役員の任期は通常1年ないし2年とされており、使用人としての再雇用が保障されていない場合には、任期満了時には執行役員等として再任されない限り、会社を去らざるを得ないこと〔3〕法律関係を委任契約とし、報酬、福利厚生、服務規律等を役員に準じたものとする場合には、使用人に対する就業規則等は適用されず、労働基準法等の適用も制限されること〔4〕損害賠償責任について、使用人は、労働法上、故意又は重過失の場合に限られているのに対し、取締役は、過失責任とされており、執行役員についても、役員と同様のレベルまでは求めないとしても、役員に準ずる責任を有している場合には、地位の変動等が認められること したがって、所得税基本通達30-2の2は、このような「特別の事実関係」があると認められる場合に打切支給される退職給与については、税務上も退職所得として取り扱う旨を明らかにしています。(なお、国税庁において、「所得税基本通達30-2の2に関するQ&A(平成19年12月5日)」を公表しています。)
【関連情報】
《法令等》
【収録日】
平成20年 7月14日