■事業計画を策定し
毎月の実績検証で軌道修正
福井銀行・舟木幸雄常務に聞く
インタビュアー TKC北陸会福井県支部長・税理士 松田 一彦
同支部KFS委員長・税理士 南 和彦
「戦略経営者」2001年7月号より転載
1899(明治32)年の創業。福井県を中心に3世紀にわたって金融サービスを展開してきた福井銀行は、顧客・株主・銀行の「トライアングル・バランスの堅持」を経営理念として掲げる。「ガンバル! 地元企業を応援」するという舟木幸雄常務に、TKC会計人の松田一彦税理士と南和彦税理士が聞いた。
松田 繊維と眼鏡は福井県の最も有力な産業として自他共に認める存在ですが、今やいずれも中国をはじめとするアジア諸国の低価格品の攻勢にさらされ存立基盤さえ脅かされています。小規模なところが多いので、どこも喘いでいますね。
舟木 “ユニクロ化現象”というんでしょうか、どの業界もアジアからの製品輸入を増やしているので、地場の産業はコスト的になかなか太刀打ちできない状態になっています。眼鏡なども昨年くらいまではまあまあの状況でしたが、今年になってからはほんとうに厳しい。
南 最近は私なども、事業を続けるべきか廃業すべきかといった相談を受けるケースが多くなっていますが、廃業の相談などというのは以前はなかったことです。
舟木 おっしゃる通りで、まだご融資できる状態なのに突然の廃業を耳にしてびっくりすることがあります。先行きが見えないということと、後継者の問題もあると思いますね。ただし、こうした経営環境にあっても着実に業績を拡大する企業、小規模ながら高い収益性を誇る企業というのもまたあるわけです。経営者が営業から財務まで行わなければならないという「ヒト」の問題、私財を投じなければ設備投資が難しい「モノ」の問題、そして資金調達手段が限られている「カネ」の問題は中小企業全般に共通した悩みですが、結局はこれらの問題を一つひとつ解決していくところがそうした企業に脱皮していくのだと思います。
南 地場産業の活力がこれだけ低下すると取引先企業から寄せられる相談も深刻なものが多いのではありませんか。
舟木 ええ。寄せられた相談は昨年だけでも数百件にのぼります。「情報支援室」を設けるなどお客さまの要請に的確にアドバイスができる体制は整えていますが、個々の企業の経営にまで踏み込んだご支援には限界があるように感じています。やはり「もちは餅屋」ですから、銀行はその一番得意とする資金供給を中心に、キャッシュフローを切り口とした現状分析と将来の採算予測をアドバイスしながら、いろいろな地域経済情報の橋渡しを行うといったところが本来の役割なのかなあと考えています。例えば小規模企業に多い突然の資金ニーズに対しては、当面の対症療法にはじまり、なぜ「突然」なのかといったそもそも論から、場合によっては経営者が自覚していない本質的な原因の究明にいたるまでの総合的な金融支援ですね。
■「実態」や「実質」も破綻懸念先の対象になる
松田 今年4月にスタートした新中期経営計画では「法人・個人部門のバランスのとれた営業による収益拡大」を経営目標として掲げ、とりわけスモールビジネスの強化に力点をおかれているとうかがっています。
舟木 ええ。お陰さまで私どもは県下最大の融資残高シェアを獲得していますが、これまで地元の中小企業の期待にお応えできていたかというと決してそうとはいえない面もありました。だから今後は従来以上にお客さまの視点を重視して「ガンバル! 地元企業を応援」していかなければならないと考えているわけです。
南 しかし政府が「構造改革」の一環として大手行に対し不良債権の最終処理を求めていますね。地方銀行として、この動きはどうとらえているのでしょう。
舟木 政府は不良債権のいわゆるオフバランス化を求めているようですが、これは単に銀行内の会計手続上の問題にとどまらず、不良債権化した取引先に対する最終方針の早期確定を求めているということです。金融不安の早期解消という国家的な命題解決のためには、そうした対応も一面では必要なのかもしれません。しかし、それが心理的効果を超えて実体経済における企業選別から淘汰までを意図したものであるなら、極力限定的に運用されなければならないと考えています。
南 政府は破綻懸念先以下の債権を既存分は2年以内、新規発生分は3年以内の最終処理を求めていますが、いずれ地銀をはじめとする地域金融機関にもその影響が及ぶということですね?
舟木 そうです。例えば大手行がある企業を破綻懸念先と認定して最終処理に踏み切れば、同じ会社に融資している地域金融機関もそうせざるを得なくなるということです。したがって地域に密着し、地域経済そのものを存立基盤とする地方銀行の立場としては、一律の適用ではなく極力限定的な適用を望みたいですね。
南 機械的に処理すれば問題は解決するというのが当局の認識であるとすれば、現場サイドとのかなりのズレを感じます。ところで不良債権最終処理の一連の動きに対し、企業にとって有効な対策はあるのでしょうか。
舟木 企業経営者はまずどんな条件に該当すると破綻懸念先と認定されるのかを知っておく必要があるでしょうね。その要件は、形式的には債務超過で一定期間以上の延滞がある場合、あるいは債務超過で借入金の金利減免や一定の条件変更がなされた場合などです。したがって債務超過という財務上の問題点と、延滞や返済条件緩和というキャッシュフロー上の問題点がともに発生した場合は要注意です。それと重要なのは見かけ上は債務超過や延滞に陥っていなくても、減価償却未済を考慮すれば実態は債務超過であったり、返済能力を考慮すれば実質的に返済棚上げと同じとみなされる場合などは、その「実態」や「実質」が検討の対象になることです。
松田 当然、経営者は自社の経営状態を直観や印象ではなく、具体的な計数として正確に把握する必要がありますね。
舟木 おっしゃる通りです。
■KFS実践企業は黒字企業割合が63.5%
松田 有効な対策となるとなかなか難しい面がありますが、私は経営者自身がもっと積極的に経営に取り組んでいく必要があると思います。当然のことですが、それは新商品や新しい販売方式などの開発で「売上高」の継続的な実現をはかることであり、業績管理を徹底して行い「適正利潤」の継続的な実現をはかることです。ご承知のように、私どもはいま「KFS作戦」というプロジェクトを通じ全国55万社の中小企業の経営革新を支援しています。『継続MASシステム』で経営計画の立案を支援し(K)、毎月の巡回監査と財務情報システムの『FX2』で信頼できる月次決算を支援(F)、予実管理を行うという流れですね。税理士法第33条の2に規定された「書面添付」の実践で正しい決算書づくりの支援も行っています(S)。
南 実際、業績管理を徹底して行うことで私どもTKC会計人が関与する企業の黒字企業割合は急上昇しています。国税庁の法人統計では平成11年の全国平均の黒字企業割合は30.1%でしたが、平成12年のTKC平均では48.8%。さらに『FX2』を利用している企業ではこれが61.2%にアップ、『継続MAS』を加えたKとFの利用企業が62.4%、「書面添付」も含めたKFSトータルの実践企業では実に63.5%にまで跳ね上がっています。
舟木 納得性の高い事業計画を策定し、毎月のタイムリーな実績検証で軌道修正を実施していくというのは、まさに金融機関が理想とする経営指導のあり方です。実は私どもが4月から「TKC戦略経営者ローン」の取扱いを開始したのも、そうしたTKC会計人の皆さんが指導する企業を対象にした融資商品だからです。
松田 有り難うございます。戦略経営者ローンはTKCイントラネットを通じて融資申込を受け付け、最大1,000万円、最長1年の融資を無担保・無保証で提供するものですが、具体的にはどのあたりに魅力を?
舟木 5営業日以内のスピード回答や無担保第三者保証不要という商品性だけなら、実は当行にも同様の商品があります。この融資制度の最大の特徴は、融資を申し込む人が金融機関を意識せずに顧問税理士を通じて資金調達の申し入れができる点にあると考えています。金額の多寡を問わず銀行に借入の申込をすることに強い抵抗感を感じるのが一般的な顧客心理ですが、この商品はその最大の障害を取り除いた点がすばらしいわけです。もうひとつは金融機関が中小企業などに新規にご融資する際、経営者の定性要因つまり「人物」や「仕事ぶり」に注意を払いますが、先ほども申し上げたようにこの戦略経営者ローンはTKC会計人から厳正な経営指導を受けているお客さまが対象ということで、その肝心な部分をある程度棚上げできる。いわば一定の水準をクリアしているという前提で審査をスタートできるので、われわれとしては財務上の判定に集中できるわけですね。当行としてはこれを機会に、より一層ビジネスチャンスを拡大できるものと期待しています。
DATA(2000年3月末現在)
◎本 部 福井市順化1-1-1
◎資本金 179億6500万円
◎店舗数 115店
◎行員数 1957名
◎経常収益 578億8900万円
◎預 金 1兆8001億1700万円
◎貸出金 1兆4143億3700万円
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