Q&A経営相談室
2016年中小企業冬季賞与の相場は
 
Q:
 デフレ再燃の声も聞かれるなか、経営環境は楽観できませんが、今年も冬季賞与を支給したいと考えています。中小企業の相場を教えてください。(飲食店経営者)
 
<回答者>日本総合研究所調査部 主任研究員 小方尚子

A:
 まず、冬季賞与の支給の前提となる景気・業績動向からみておきましょう。

 第2次安倍内閣の経済政策、いわゆる「アベノミクス」が始まってほぼ4年がたち、日本経済は回復軌道をたどっているものの、このところ力強さを欠く状況が続いています。

 外需は、世界的な景気減速や円高をうけて、輸出が伸び悩んでいるほか、昨年まで急増が注目されたインバウンド需要も、2016年には、いわゆる「爆買い」が一服し、想定外の閑古鳥が鳴く状況に悩む小売店などもみられます。

 内需も低迷しています。自動車、家電の購入支援策や消費増税前の駆け込み需要の反動で、耐久消費財の買い控えが続いています。加えて、税・社会保険料の増加で手取り収入が増えないなか、今後も負担が増えるとの将来不安が、若年層を中心に消費抑制に働いています。さらに、企業の設備投資も、需要の先行き不安に伴う様子見や建設現場の人手不足により、計画対比遅れの目立つものが少なくありません。

 このように景気に弱さが残る中、企業業績は、円高による収益下押し圧力を吸収し切れずに悪化しており、日銀短観9月調査によれば、2016年度の経常利益は全規模・全産業ベースで▲8.2%の減益となる見込みです。

 企業規模別にみると、中小企業の▲8.0%に対し、大企業は▲9.2%と、率でみた減益幅は大企業の方が大きくなっています。これは、大手企業の外需依存度が相対的に高いため、足元の円高影響が大きく表れたことが一因です。また、円安の際の収益押し上げ効果が大きかった分、落ち込みが大きくなっている側面もあります。

 景況感をみると、日銀短観9月調査の業況判断DIは、大企業が12ポイントの「良い超」を維持しているのに対し、中小企業は「良い」と「悪い」が拮抗(きっこう)する0ポイントとなっており、より厳しい経営環境がうかがえます。

夏季より厳しい見込み

 以上を前提に、賞与の動向を展望すると、冬季賞与は、中小企業でより厳しいものとなる見込みです。2016年夏季賞与では、従業員30人以上の企業で前年比+2.4%であったのに対し、従業員5〜29人の企業では同+2.7%と、中小企業の方がやや高い伸び率となりました。しかし、冬季賞与については、逆転が予想されます。大手企業では、年間の賞与支給ファンドを夏前に決めておく「春夏方式」が全体の6割強を占めるため、冬季賞与も夏季に続き底堅く推移する見込みです。一方、中小企業では、業績に応じて賞与が振れやすい傾向があり、業況の厳しさに加え、労働分配率などから見て、大手以上に人件費支払い余力が低下していることもあり、前年並みか、やや上回る程度にとどまると予想されます。

 一方で政府は、賃金の引き上げがデフレ脱却に欠かせないという認識のもと、下請法や独占禁止法の運用を強化し、中小企業の賃上げの環境整備を図る方針です。政策の実効性は未知数ですが、人口が減少するなか、人手不足が深刻化し、需給面からの賃上げ圧力が高まっているのは事実です。そうした観点からみれば、人材流出リスクの低減、人材への投資として、賞与を含めた賃金引き上げの重要性は引き続き高まっているといえるでしょう。

提供:株式会社TKC(2016年12月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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