Q&A経営相談室
社員の有給休暇取得を促すべきか
 
Q:
 国(厚労省)はいま、各企業に対して社員の有給休暇取得を増やすように働きかけています。経営者として、社員に有給取得を促すべきかどうか正直、判断に迷っているのですが……。(食品加工業)
 
<回答者>人材コンサルタント 常見陽平

A:
 結論から言うと、社員の有給休暇取得の推進は、積極的におこなった方がよいでしょう。これは、別に従業員に喜んでもらうためではありません。有給取得推進こそが、中長期で見て、強い企業作りにつながるからです。

 まず、日本における休日の実態を見てみましょう。独立行政法人労働政策研究・研修機構の『データブック国際労働比較2012』によると、2010年時点の調査で、日本人の休日数は136.9日。ドイツの144日、フランスの139日、イタリアの141日と比較するとやや少ないですが、イギリスの136.6日と比べるとあまり変わりません。これだけをみると、平均日数ベースでは劇的に少ないわけではありません。

 ただ問題は、休日の種類です。日本は週休日以外の休日(いわゆる祝日)が15日となっており、イギリスの8日、イタリアの9日、ドイツ・フランスの10日と比較すると多い一方で、年次有給休暇は日本が17.9日なのに対してイギリスは24.6日、フランスは25日、イタリアは28日、ドイツは30日です。これを見ると明らかなように、日本は祝日の割合が高く、年次有給休暇の割合が低いのです。余談ですが、日本に祝日が増えたのは、有給の取得が進まないからだと言われています。

 有給休暇の取得率については、もう一つ、面白いデータがあります。2010年にロイターと調査会社イプソスが有給休暇を使い切る労働者の割合を国別で調査したものです。調査は24カ国の約1万2500人を対象に実施されました。この結果をみると、フランス89%、アルゼンチン80%など、ランキングが続きますが、日本は堂々の最下位で33%でした。

有給取得にはメリットあり

 有給取得が進まないのは、「仕事に人をつける」のではなく、「人に仕事をつける」という仕事のまかせ方などが一番の問題だと私は見ています。製造業などにおいては、有給取得が数値目標に落ちており、取得が進んでいるのですが、有給取得率が上がるとその分、残業時間も増えるという残念な結果になっています。

 私は有給取得を推進する企業こそ、今後伸びる企業だと信じています。これによって仕事の配分が最適化しますし、仕事の効率も上がります。現場からあえて人が抜けることにより、一部の人に仕事が集中することもなくなりますし、みなさんの企業を疑っているわけではありませんが、結果的に不正の防止にもつながります。また、従業員のモチベーションアップ、健康の維持につながることは言うまでもありません。

 有給取得を推進するためには、数値目標の設定、仕事の配分の見直し、仕事の定型化、休みやすい風土作りがポイントになります。有給取得が進んでいる企業では、いつ休みをとるのかあらかじめ計画を出させ、部内でやりくりするなどの手をとっています。管理職は普段から、誰がどれだけ忙しいのか把握することを心がけるとともに、誰でも仕事が代行できるよう、仕事の定型化にも努めたいものです。休みやすい企業作りこそが、業務の効率化、儲かる企業への変身を促すということをぜひ覚えておいてください。

提供:株式会社TKC(2015年1月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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