Q&A経営相談室
【賃金】
中小企業の冬季賞与の相場は
 
Q:
 ここにきて海外景気が下振れするなど、当社を取り巻く環境はよくありませんが、今年も冬季賞与を支給したいと考えています。中小企業の「相場」を教えてください。(機械部品メーカー)
 
<回答者>日本総合研究所調査部 調査部長 山田 久

A:
 わが国の賞与は諸外国対比給与総額に占める割合が大きく、従業員の生活のための一時金という性格も持ちますが、その金額は企業業績によって大きく変動してきました。この賞与額の変動により、企業収益の増減が雇用調整のバッファーとなっており、この傾向は現在でも変わっていません。実際、企業の経常利益の増減率と賞与の伸び率の間には相関がみられます。両者の間にはおおむね半年のラグがあり、今年の冬の賞与の動きは、今年前半の企業業績の影響を大きく受けることになります。

 そこで、最近の企業業績の動向をみてみましょう。財務省「法人企業統計」によれば、2012年1〜3月期、4〜6月期の全産業ベース(除く金融)の経常利益は、前年同期比でそれぞれ+9.3%、+11.5%となっています。産業別では製造業が+3.6%、+2.7%、非製造業が+11.8%、+16.0%となっています。

 2011年の冬季賞与は、従業員30人以上でみて、前年比▲1.1%、5人以上でみて同▲1.9%と、2010年のそれぞれ+0.5%、▲0.4%に比べ、悪化していました。これは、2011年の前半は東日本大震災が発生し、サプライチェーンの寸断や電力不足の影響などから景気が落ち込み、企業業績も悪化したことが背景にありました。

 これに対し、今年前半の景気は復興需要の下支えや消費の堅調などから比較的底堅く推移し、企業業績も堅調でした。この面は今年の冬季賞与にとって改善要因です。

 しかし、明確な改善は見込みがたいのが実情です。今年前半の収益改善は落ち込んだ昨年対比の話であり、利益水準自体はなお低めにとどまっています。加えて、ここにきて海外景気の下振れや尖閣諸島をめぐる日中摩擦の先鋭化など、先行き不透明感が高まっています。賞与は基本的に半年程度前の収益の影響を受けるとはいえ、足元で景気が変調を起こせば、その影響を免れません。

 このようにみれば、今年の冬季賞与については、前年並みか小幅マイナスが予想されます。業種別では、外需の先行き不透明感の高まりの影響を強く受ける製造業ではややマイナスになる一方、内需の相対的な堅調を受ける非製造業では若干前年水準を上回る見通しです。実際、労務行政研究所の東証1部上場企業に対する調査(9月12日時点)では、前年比▲1.1%、製造業で▲1.3%、非製造業で+0.1%となっています。

 以上は主に大手企業の傾向ですが、中小企業の賞与相場については、これらをやや下回るものと見込まれます。ちなみに、過去2年間では比較的規模の大きい企業のみの従業員30人以上ベースが、中小・零細も含む5人以上ベースを1%弱上回っています。この点を踏まえれば、中小企業の今年の冬季賞与は前年をやや下回る程度となることが予想されます。

 ここで付言しておく必要があるのは、以上はあくまで「平均」の予想であり、中小企業では特にばらつきが大きいことです。将来の事業戦略のためにあえて賞与を絞り、設備投資や研究開発に利益を投じるケースもあれば、従業員のモラールを上げるために賞与をあえて多く支払うのも一考です。いずれにしても、重要なのは、賞与を経営の考え方を従業員に浸透させるための重要な機会と捉え、支給時に将来ビジョンを語りかけることといえるでしょう。

提供:株式会社TKC(2012年12月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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