Q&A経営相談室
【特許】
改正特許法の主なポイントは
 
Q:
 今年5月31日に衆議院本会議で特許法の改正案が可決したと聞きました。改正の主なポイントを教えてください。(産業機器製造)
 
<回答者>弁理士 西川幸慶

A:
 今回の特許法改正は抜本的な改正ではなく、制度を現在の実情に合わせてより利用しやすくするための変更ということができます。改正点は多岐にわたりますが、主に中小企業経営者の方に知っておいていただきたいポイントを説明します。

1.ライセンス契約の保護強化
 他人の特許発明を実施したい場合は、特許権者とライセンス契約(実施契約)を結んで実施権者となります。実施権には独占的な専用実施権と、独占的でない通常実施権がありますが、多くの場合は通常実施権のライセンス契約となります。

 現行法では通常実施権を特許庁に登録すれば、その後に特許権が譲渡された場合でも新しい特許権者に対して通常実施権を主張できます。つまり通常実施権者は特許権者が変わっても発明の実施を続けることができます。しかしながら、実際にはライセンス契約の際に特許権者に対して通常実施権の登録を要求しにくく、あまり登録されていません。通常実施権の登録をしない場合には、特許権が譲渡された場合に新しい特許権者から特許権侵害として差し止め請求等を受けることがあります。

 今回の改正ではライセンス契約の保護を強化する意味で、通常実施権の登録を不要としました。これによれば登録をしなくても契約書等で通常実施権の存在を立証できれば、新しい特許権者に対して通常実施権の効力を維持することができます。

2.共同研究等の成果に対する発明者の保護
 共同で発明した場合、特許を受ける権利は原則として共同発明者全員にあります。しかし共同で出願すべき発明について共同発明者の一部が単独で特許出願し、特許権を得てしまうことなどがありました。近年、企業相互間や、企業と大学との間で共同研究が多くなっていますが、特許庁の調査によるとこうした「抜け駆け」的な単独の出願をされてしまった経験を持つ企業・大学が4割近くもあるとのことです。このような場合、現行法においては発明者の保護手段は特許権を無効とする等に限られていました。今回の改正では、そのような場合に本来特許権者となれたはずの発明者が、抜け駆けした特許権者に対して特許権の移転を請求できるようになります。請求が認められれば、請求をした者に特許権が移転されることになります。

3.新規性喪失の例外規定の適用範囲拡大
 発明は公表されると「新規性」を失うので、原則として公表前に特許出願する必要があります。しかしながら事情により公表前に出願できない場合もあるので、特許法では救済措置として「新規性喪失の例外」という規定を設け、出願前に公表された場合でも所定の場合は新規性を喪失しなかったものとして扱います。現行法では、刊行物への発表、特定の学会での文書による発表、特定の博覧会への出品など適用できる範囲が限定されていましたが、今回の改正により発明者が自ら公表した場合について広く適用できるようになります。たとえば、発明者が展示会やコンテスト等で発表した場合なども「新規性喪失の例外」の適用を受けることができます。

 今回の改正には、特許料減免期間の延長、紛争の迅速・効果的な解決のための審判制度の見直しなども含まれます。また、実用新案法、意匠法、商標法なども改正があります。詳しくは特許庁のホームページ等をご参照ください。なお、この改正法の施行日はまだ決まっていませんが、「公布の日(2011年6月8日)から1年を越えない範囲内」とされています。

提供:株式会社TKC(2011年8月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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