Q&A経営相談室
【賃金政策】
中小企業の冬季賞与の相場は
 
Q:
 デフレと円高で「収益環境」が厳しくなってきていますが、今年も冬のボーナスを支給する予定です。中小企業の相場はどれくらいになりそうか教えてください。(機械製造業)
 
<回答者>みずほ総合研究所 経済調査部エコノミスト 松本 惇

A:
 09年春からの日本経済は中国などアジア向けを中心に輸出が持ち直したほか、エコカーやエコ家電購入支援策の効果で個人消費が盛り上がるなど回復の動きを続けてきました。そのもとで企業の収益環境も改善してきました。

 今年11月に発表された厚生労働省「毎月勤労統計」によると、民間企業の2010年夏の1人当たりボーナス支給額(5人以上事業所)は前年比+1.1%(09年夏は同▲9.7%)と2年ぶりにプラスとなりました。支給月数(ボーナス支給額÷所定内給与)は前年並みでしたが、ボーナス算定のベースとなる所定内給与が増加しました。規模別にみると、大企業(事業所規模30人以上)が前年比+1.7%となる一方、中小企業(同5〜29人)は同+0.3%と前年から小幅の増加にとどまりました。

 1人当たりボーナス支給額が増えたことに加え、支給対象者数(支給事業所に雇用される常用労働者数)も増加しました。支給対象労働者の割合(常用労働者のうち支給事業所に雇用される者の割合)は81.3%と昨夏(80.5%)より上昇しており、6〜8月の常用雇用者数を用いて試算すると、支給対象者数は前年比+1.4%、支給総額は同+2.5%(13.2兆円)となります。

 今冬のボーナスを取り巻く環境も、昨年と比べれば改善しています。日本銀行「全国企業短期経済観測調査(2010年9月調査)」によると、10年度上期の経常利益は前年比+51.1%と大幅な増益が見込まれています。利益水準はまだ高いとはいえませんが、支給月数は1.01ヵ月(前年差+0.01ヵ月)とわずかながらも上向くでしょう。

 ボーナス算定の基礎となる所定内給与も増加する見通しです。ただし、企業は依然として余剰な人員を抱えた状態です。デフレが続いているため、価格面から売上高が圧迫される状況も変わっていません。こうしたなか、企業は相対的に賃金が低い非正規社員を優先的に採用するなどして、人件費を圧縮するスタンスを維持すると考えられます。内閣府の「平成21年度企業行動に関するアンケート調査」でも、中長期的に人件費削減を「強化(10.8%)」、「引き続き実施(55.4%)」と回答する企業が半分以上を占めました。こうした状況に鑑みれば、ボーナスが支給される事業所に勤める労働者の所定内給与は前年比+0.8%と、昨年の落ち込み幅(同▲5.1%)に比べれば小幅な改善にとどまるでしょう。

 以上を踏まえ、みずほ総合研究所では今冬の民間企業1人当たりボーナス支給額を前年比+1.3%と予測しています。規模別にみると、中小企業は前年比+0.5%と大企業(同+2.1%)に比べて低い伸びにとどまるでしょう。支給対象者数の増加もあり、支給総額は前年比+3.0%と上向くと考えられます。もっとも、前年の落ち込み幅に比べると伸びは小さく、1人当たりボーナス支給額は金融危機前の07年冬と比べると低水準にとどまるとみられます。家計の所得環境には厳しさが残ることになりそうです。

提供:株式会社TKC(2010年12月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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