Q&A経営相談室
【環境対策】
世界的な化学物質管理規制への対応
 
Q:
 国際的に化学物質に係る規制が強化されていると聞きました。中小企業にも関係ありますか。ある場合にはどのような対応が必要でしょうか。(部品製造)
 
<回答者>産業環境管理協会 企画参与 傘木和俊

A:
 国際的な化学物質管理の流れは、1992年の国連地球環境サミットで定められた「アジェンダ21」が「2020年までに化学物質の製造と使用による人の健康と環境への悪影響の最小化を目指す」と目標設定し、この実現にむけ、06年国際化学物質管理会議が「国際的化学物質管理に関する戦略的アプローチ」(SAICM)を取りまとめ、各国においても現在この目標達成に向け諸規制の整備が進められつつあります(欧州REACH、日本化審法など)。

 SAICMを受けて、新たに規制強化が行われつつあるポイントは、大きく3つあります。1つは新規化学物質のみならず既存物質も対象に含めること。このことは、対象となる物質数が飛躍的に大きくなることを意味します。2つ目は物質の有害性(ハザード情報)に基づく管理から、リスク(ハザード情報×暴露情報)に基づく管理への移行です。そして3つ目は化学品及び混合物(調剤)といった化学品メーカーが販売する製品のみならず、テレビや自動車などの最終製品を含めた成形品(部品)が含有する化学物質も対象となることです。これらの変更によって、すべての製造産業が化学物質管理に等しく取り組む必要が生じました。

 既に、川下の最終製品メーカーでは、調達する部品などに含まれる規制対象物質の存在の有無などについて調査を行い、取引先の企業に対し回答を求めるところもでてきました。回答は、素材や原料を生産する川上企業から、携帯電話やパソコンを生産する川下企業まで、更には各企業を支える協力会社を含めたサプライチェーン全体が、各社で使用/含有/混入した化学物質の中で有害性をもつと合意された物質を各社の顧客に向け情報開示していくことで初めて把握できます。このため、企業内の購買部門や品質保証部門等においては、自社/自製品/自工程で、調達部材・部品や工程内で化学物質を混入した場合の管理などを適正に行い、管理対象物質の種類と量の把握を行う必要があります。

 部品や成型品を製造している中小企業の事業者の方々も、原則全ての化学物質について、規制動向を把握することを心がけるべきでしょう。さらに、規制対象物質の生産や自社製品内における使用状況を確認し、環境や人体への影響が現時点では問題にならない化学物質を設計・調達段階から管理し、使用することが必要です。特に、製造プロセスにおける管理は極めて重要で、これらへ適正に対応できる人材育成も急務です。

 すなわち、これまでのいわゆる品質、コスト、納期といった重要なコマーシャルスペックに加え、環境対策が必要になってきているのです。環境対策としては、CO2や省エネが代表的ですが、化学物質についても同様に対応しなければならない時代に入ってきました。

 これら化学物質規制への対応は、原則すべての企業に義務づけられます。取引先への信用拡大、環境負荷の低減、効率的な管理によるコストの削減等が見込まれることから、決してマイナス面ばかりではなく、むしろ国際的な競争力の向上に大きく寄与するものとして捉えることが重要です。

提供:株式会社TKC(2010年11月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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