Q&A経営相談室
【電子媒体】
「電子書籍化」における法律上の留意点
 
Q:
 自社で発刊している書籍(雑誌等)を電子書籍化したいと思っています。法律上の留意点があれば教えてください。(出版社)
 
<回答者>牧野総合法律事務所 弁護士 世戸孝司

A:
 キンドルやiPadなど、電子書籍端末の出現により、電子書籍に対する関心度合いが高まっています。出版社のなかには、自分たちが発刊している書籍を電子媒体化しようと考えているところも少なくないかと思います。しかし自社発行の書籍だからといって、自由に電子書籍化しても構わないというわけではありません。著作権や肖像権といった、法律上の制約があるのです。

 そもそも一般的な紙の雑誌のように、執筆依頼記事や、インタビュー対象者の写真を掲載する書籍の著作権や肖像権はどうなっているのでしょうか。それについては執筆依頼を受けた時点、あるいは写真の撮影を許可した時点で、その雑誌が複製、出版されることに対しての許諾がなされているものと考えられます。

 しかしそれはあくまでも、紙媒体での発行に対する許諾であり、電子媒体に複製・掲載し、広く頒布することについての許諾を得られているわけではありません。ですから、電子媒体にして転用(二次利用)するには、新たに著作権処理や肖像権処理が必要になります。つまり、過去に出版した雑誌のバックナンバーを電子書籍化するにあたっては、前もって電子書籍化の許諾を取っていない限り、記事の執筆者や写真に写っている人物(あるいはカメラマン等)から新たに許諾を取ることが必要になるといえます。

 また、インターネットでの配信サービスといった、電子媒体の書籍を「ネットワークを通じて利用者に送信する場合」には、著作物を公衆に送信する権利、すなわち公衆送信権(著作権法第23条)の行使についても、著作権をもつ対象者から許諾をもらう必要があります。

 許諾の意思を書面化

 電子書籍化する際に必要な許諾については、後々のトラブルを回避するために、契約段階(執筆・撮影依頼のとき)でもらっておき、契約書や覚書などの体裁で、きちんと書面化しておくべきです。この先、雑誌等の電子書籍化をする予定があるのなら、執筆や撮影の依頼をする時点で、電子書籍として二次利用することの許諾をもらっておいた方がよいでしょう。また、バックナンバーの電子書籍化にあたって許諾を得るケースでも同様に、書面化することが必要となります。

 なお、紙媒体での出版の場合、著作権者が出版権者(出版社)に対して、“出版権”を設定し、出版権を設定された出版権者は、設定行為で定めるところにより、頒布の目的をもって、著作物(執筆依頼記事)を印刷、その他の機械的又は科学的方法により文書又は図画として複製する権利を持っているとされています(著作権法第80条第1項)。

 ここでいう出版権とは、上記のとおり「文書又は図面」を「印刷その他の機械的又は科学的方法に」よって複製する権利であり、電子データである電子書籍については出版権を設定することはできないのではないか、という議論があります(中山信弘著『著作権法』、田村善之著『著作権法概説』、『コピライトNO.521』参照)。

 この点について、実務上の決着はついていませんが、電子書籍化についての出版権の設定について合意できるのならば、契約書にその旨を明記し、出版権が設定されたことを文化庁長官宛に登録(著作権法第88条第1項、同条第2項が準用する第78条)しておくことをお奨めします。

提供:株式会社TKC(2010年8月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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