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2009年4月21日、不正競争防止法が改正され、営業秘密の侵害に対する罰則が強化されました(2010年施行予定)。その概要は以下の通りです。
まず、これまで営業秘密侵害罪の要件であった「不正の競争の目的」は、全て「不正の利益を得る目的」または「その保有者に損害を加える目的」(以下「図利加害目的」といいます)と改正されました。図利加害目的は、不正競争の目的に限られない広い概念であり、処罰範囲が拡大されました。たとえば、競争関係にない第3者への営業秘密開示行為や、単に営業秘密の保有者に損害を加えるためだけの開示行為などが、これにより新たに処罰対象となります。
次に、営業秘密取得罪(改正21条1項1号)の要件から、媒体取得・複製作成の方法によるという文言が削除され、方法の制限がなくなりました。また、これまでは「不正競争の目的での使用・開示」の用に供するための取得のみが処罰されていましたが、単に図利加害目的で取得した場合でも侵害罪が成立するようになりました。したがって、図利加害目的があり、詐欺等行為または管理侵害行為による取得であれば、方法を問わず営業秘密取得罪に該当します。
さらに、営業秘密領得罪(同3号)では、これまでは単なる領得行為は処罰されず、最終的に使用・開示することが要件でしたが、使用・開示の要件は削除されました。また、営業秘密の記録された媒体・物件の横領や、複製を作成する行為だけでなく、消去すべき営業秘密を消去せず、または消去したように見せかける行為も処罰対象となりました(同3号ハ)。
たとえば、従業員が自社の営業秘密の複製を、不正な目的なくUSBメモリなどに保存していたところ、その後これを不正競争の目的で持ち帰ってしまったような場合は、営業秘密侵害罪に該当しないという限界がありました。この行為は上記要件に該当すれば改正21条1項3号ハに該当するので、企業としては、従業員に営業秘密を預ける場合でも、必ずその後消去させる規則を作り、また実際に消去したことを従業員に確認し記録しておく運用をとっておけば、営業秘密の不正取得があったとして責任追及が可能になります。
また、改正前は、使用・開示の立証が困難であったため、営業秘密を持ち出した従業員の責任追及が困難であるという問題がありました。この改正により取得を立証すれば足りるようになり、図利加害目的の立証も不正競争目的の立証より容易と考えられるため、営業秘密の保護が容易になりました。
ただしこれは、他社の営業秘密を取り扱う場合には、従業員監督をより厳重・適切に行わなければならないということでもあります。特に3号ハとの関係では、従業員が当該他社の営業秘密を確かに消去したかを確実にチェックできる体制を整備しなければなりません。単に相手方企業により消去の確認を得たというだけでは、これまでは免責の効果があったかもしれませんが、今後は3号ハによる責任追及を免れないことになります。
また、特殊なノウハウを持つ者を採用する場面でも、そのノウハウが他社の営業秘密に属するものでないかを確認し、これを記録しておかなければ、会社も営業秘密侵害の責任を問われる危険性があります。
いずれの場合も、確認作業の結果を記録しておくことで、会社には図利加害目的がないという証拠になります。これまで以上に記録の重要性があるといえるでしょう。
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