Q&A経営相談室
【人事制度】
パートを正社員にする手続きと注意点
 
Q:
 今までパートとして働いていた方を正社員にする場合、どのような手続きで行えばよいのか。その際の注意点も教えてください。(小売業)
 
<回答者>社会保険労務士 山本礼子

A:
 平成20年4月から「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下パート労働法)が改正されたため、パートタイム労働者を正社員にする動きが活発になっています。

 今回の改正により、パート労働法第8条において、「通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者については、待遇について差別的取扱いをすることを禁止する」と規定されました。通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者とは、(1)職務の内容が正社員と同一である、(2)期間の定めがない労働契約(契約期間があり繰り返し更新を含む)である、(3)人材活用の仕組み(人事異動など)が正社員と同様である、という3点すべてにあてはまる者をいいます。

 職務の内容は、従事している業務内容と責任の程度などを総合的に判断します。つまり、雇用契約上の名称がパートタイム労働者であっても、勤務実態を総合的に見て正社員と同様の勤務状態である者については、賃金などについて差別をしてはならない、ということなのです。

 さらに改正パート労働法では、「パートタイム労働者が正社員への転換を推進するための措置を講ずること」を義務付けています。具体的な転換推進の措置として、(1)正社員の募集に関する募集内容をパートタイム労働者に遅滞なく周知する、(2)社内公募で正社員の募集をする場合、パートタイム労働者に応募する機会を与える、(3)一定の資格を有するパートタイム労働者を対象とした試験制度などにより正社員への転換制度を導入する、(4)その他転換のための教育など、のうち1つ以上の実施をしなくてはなりません。

 正社員への転換制度の導入については、パートタイム労働者の勤続年数が長い場合は正社員にしなければならない、ということではありません。正社員となる機会を与えることが義務付けられているということです。したがって、公正な採用選考であれば、パート労働者を優先的に採用しなければならない、というものではありません。転換の仕組みについてはパート労働法の通達でも、パートタイム労働者から正社員という形だけでなく、パートタイムから契約社員、その次に契約社員から正社員というような多段階設定方式でもよい、とされています。

 正社員への転換の要件としては、勤続年数や職務に必要な資格などを課すことは、会社の実態に応じたものであれば問題ありません。ただし、必要以上に厳しい要件を設けている場合は、パート労働法の転換制度などの義務を果たしていることになりません。

 社員になって欲しいと思うパートに直接声をかけ正社員になってもらうという方法は、パート労働法違反ではありませんが、すべてのパート労働者が正社員への転換の機会が与えられている仕組みが必要です。

 また、パートタイム労働者が正社員や契約社員などになる場合に、勤務時間に応じて雇用保険と社会保険の適用があります。雇用保険については週の所定労働時間が20時間以上で、かつ1年以上雇用する見込みのある者については加入対象となります。健康保険と厚生年金保険は、労働日数と時間の両方が、正社員の4分の3以上である場合は加入となります。

 なお、パート従業員や契約社員などの非正社員を正社員にする中小企業には「中小企業雇用安定化奨励金」が助成されます。支給対象となるのは(1)中小企業事業主であること、(2)雇用保険の適用事業主であること、(3)新たに有期契約労働者を正社員に転換される制度を労働協約または就業規則に定め、かつ1人以上を正社員に転換させたこと、(4)転換制度を公正かつ適正に実施していることです。

 
提供:株式会社TKC(2008年7月)
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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