Q&A経営相談室
【資金調達】
金検マニュアルの「資本的借入れ」とは
 
Q:
 最近、「金融検査マニュアル」に「資本的借入れ」が盛り込まれ、この4月から中小企業金融公庫で『挑戦支援資本強化特例制度』という借入れ制度がスタートしたと聞きました。これらは今後、中小企業金融にどんな影響を及ぼすのでしょうか。(印刷業)
 
<回答者>ファインビット代表 中小企業診断士 中村中

A:
 中小企業金融公庫の『挑戦支援資本強化特例制度』の資本的借入れは、期間15年で期日一括返済であり、無担保・無保証の借入れです。そして、金利は業績不振時には0.4%と低水準であり、業績好調時には9.95%と高水準に設計されています。まさに、金利というよりは、資本金に対する配当金のようです。また、この借入れは、地域経済の活性化に貢献する企業であることが求められています。すなわち、返済形態・金利体系・担保状況・対象企業の条件も、今までの金融機関の借入れにない商品なのです。

 この資本的借入れは、中小企業金融公庫から限定的にスタートしましたが、この制度が広く知られることになれば、中小企業金融は柔軟な方向に変わっていくものと思われます。先ず、今までの借入れは、原則、その返済財源が入金されるまでの期間でしたが、今後は、そのような制限は柔軟になり、超長期の借入れが出来るようになるのです。金利についても、企業の業績・収益状況による制約から自由になり、担保についても、信用扱いが主流になっていくものと思われます。そして、地域経済の活性化に寄与する企業については、柔軟・寛大な借入れ条件を受ける可能性があります。中小企業が正しい財務報告で情報開示を行い、地域経済の活性化に貢献していることを金融機関に伝えれば、ざっくばらんに借入れ条件の交渉をすることが出来るようになるのです。

 信用格付けが下がった企業に対して、従来は、金融機関が、一方的に返済を迫り金利を上げるということが一般的でしたが、今後は、この資本的借入れの考え方を拠り所にして、中小企業の社長は「モノ言う経営者」になって、次のように切り返すことが出来ます。

 「一方的に借入れの条件を押し付けるようなことをおっしゃるのは、ちょっと待ってください。確かに当社の信用格付けは下がったかもしれませんが、最近誕生した中小企業金融公庫の『挑戦支援資本強化特例制度』という貸出は、15年もの超長期間の期限一括返済で、業績悪化時は金利を下げ、好調時には金利が上がるという資本金のような貸出だそうですね。私ども中小企業も、これからは、資金使途や返済財源など、もう少しキャッシュフォローについて詳しく金融機関にはご説明するつもりですが、とにかく、借入れは今までよりも、柔軟に前向きに対応してくれることになるのですよね」

 中小企業としては、このような強気の発言を実際にはなかなか出来ないかもしれませんが、金融機関のバイブルである「金融検査マニュアル」には、「十分な資本的性質が認められる借入金は負債ではなく資本と見なすことができる」と明記されているのです。このことは、金融機関も自らの判断で、中小企業への貸出条件や金利を柔軟に対応してよいということである一方、中小企業自身もこれらの条件などを堂々と金融機関に要請できることになるのです。

 このように柔軟性のある資本的借入れは、今後の中小企業の必須資金になる、業種転換資金、成長分野拡充資金、創業資金そして事業承継資金などの「挑戦的な」資金ニーズにも、上手く対応できるでしょう。これは、明らかに、中小企業の発展に寄与し、連れて地域の活性化にも繋がるものです。そして、「晴れたら傘を貸し、雨が降ったら傘を取り上げる」と揶揄された金融機関も、「雨が降ったら傘を貸し、晴れたら傘を預かってくれる」という有難い存在に変わっていくものと思われます。

 
提供:株式会社TKC(2008年6月)
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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