Q&A経営相談室
【法  律】
裁判員制度の内容と対策
 
Q:
 2009年から裁判員制度が始まりますが、その内容と企業側の対応を教えてください。(機械製造業)
 
<回答者>牧野総合法律事務所 弁護士 世戸孝司

A:
 裁判員制度が来年(2009年)5月までに開始されます。この制度は、国民の中から選任された裁判員が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与するというものです。国民が関与することで、司法に対する国民の理解の増進と、その信頼向上に資すると考えられたことから設けられた制度です。

 裁判員が関与する裁判は原則として死刑又は無期の懲役もしくは禁錮に当たる罪に関わる事件で、例としては殺人・強盗致死傷・危険運転致死・現住建造物等放火・保護責任者遺棄致死などです。

 裁判員に選ばれるプロセスは、1) まず市町村の選挙管理委員会が裁判員候補者予定者名簿を作成します。この予定者名簿には、衆議院議員の選挙権を有する方の中から、次年に必要な裁判員候補者の員数だけ選ばれ、登載されます。

2) 1)の予定者名簿から、さらに抽選でその事件の裁判員候補者が選ばれ、裁判員候補者名簿が調製されます。この候補者名簿に登載された方は裁判所から、裁判員選任のために裁判所へ赴く日時等が知らされます。

3)裁判所において、こられた方の中から裁判員が選任されます。その際、裁判員候補者は裁判長から裁判員の選任資格を有するか、裁判員になれない事由(一般的に欠格しているかどうか、当該事件について不適格かどうか)等の質問が行われます。

 さて、裁判員になると、刑事裁判の法廷(公判期日といいます)に出頭しなければなりません。出頭すべき日時や場所は予め裁判所から通知されます。

 そして証人や被告人の証言を聞き、証拠を調べ、それらを基に事実を認定し、被告人が有罪か無罪か、有罪であるとしたらどのような、どれくらいの刑にすべきかを決定します(評議、評決)。なお期日の立会いから判決手続きまですべて裁判官が同席し、裁判官と一緒に合議体で裁判を行います。

 裁判長は、その評決内容に従った判決を宣告します。これにより、裁判員の職務は終了します。

原則「辞退」はできない

 裁判員は公平さ、秘密厳守が強く要請されるため、買収されたり、秘密を漏らしたりすると、懲役刑又は罰金刑に処せられます。

 また、裁判員に選ばれたにもかかわらず、正当な理由なく裁判所に出頭しなかった場合は10万円以下の過料に処せられます。

 裁判員は原則として辞退することはできませんが、例えば従事する仕事における重要な用務があって、自らがその用務を処理しなければ当該事業に著しい損害が生じる恐れがある場合は、裁判員に選任されることを辞退することができます。この要件は裁判所によって個々のケースごとに、当該用務の重要性や自ら行うことの必要性、著しい損害が生じる可能性等を考慮のうえ、裁判員の仕事を行うことが困難であるかどうかを検討し、辞退を認めるかどうかを判断することになります。

 企業は従業員が裁判員に選任され、その職務を行うために休暇を取ったことで不利益な取り扱いを行ってはなりません。ただ、前記の辞退事由に該当しない従業員であっても、会社を休まれることで、大なり小なり業務に支障が出る恐れがあることは否定できないところです。そのための対策は企業ごとに講じておくべきでしょう。

 企業としては、従業員が裁判員に選任される可能性があること、裁判員に選任されたら会社を休まなければならないこと、それが原則であることを認識しておく必要があります。

提供:株式会社TKC(2008年1月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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