Q&A経営相談室
【賃金政策】
中小企業の冬季賞与の相場は
 
Q:
 地方で小売業を経営しています。社員に冬の賞与を支給しようと考えていますが、中小企業の相場はどれくらいになるのか教えてください。(小売業)
 
<回答者>みずほ総合研究所 経済調査部シニアエコノミスト 太田智之

A:
 今冬のボーナスは社員の方から見れば期待はずれの結果となりそうです。賞与の算出基準となる所定内給与(基本給相当)が弱含んでいることに加え、収益の増勢ペース鈍化から、支給月数も減少するとみられることが理由です。

 実際、所定内給与は2006年以降前年割れが続いています。雇用環境が改善しているのに「なぜ?」と思われる方も多いでしょう。一般的に人手不足感が強まると、企業は優秀な人材を確保するため、賃金などの労働条件を、他企業よりも魅力的に設定する必要があります。2007年9月の日銀短観をみると、企業の雇用過不足感を示す雇用人員判断DI(「不足」と回答した企業割合から「過剰」と回答した企業割合を引いたもの)はマイナス9と人手不足の状態にあることを示しています。先行きについても、さらなる人手不足が見込まれており、本来であれば賃金が上昇しやすい環境にあるといえます。

 それにもかかわらず、賃金が伸び悩んでいるのは、パートや派遣など雇用形態の多様化が進んでいるからです。雇用形態の多様化は、働き手の事情に合った働き方が可能となる一方で、正社員に比べてパートや派遣の賃金水準が低いため、所定内給与を押し下げる要因となります。少子高齢化で労働力不足が深刻化すると見込まれるなか、企業は女性や高齢者の活用を積極的に進めており、雇用形態の多様化を通じた賃金抑制圧力は当面続くとみられます。

 また、日銀短観によると2007年度上期の収益状況は、原材料価格の上昇や人件費負担の増大を背景に小幅減益の見通しとなっています。これはあくまで9月時点の計画であり、実績がほぼ固まる12月調査では上方修正されるとみていますが、夏場以降、為替レートが円高基調で推移しているため、円安の追い風があった昨年に比べて増益ペースが大きく鈍化するのはほぼ確実な情勢です。

 以上ようなことから、みずほ総合研究所では民間企業(事業所規模5人以上)1人当たりボーナス支給額を前年比マイナス1.3%の42万8059円と予想しています。前年を下回るのは2003年以来、4年ぶりのことです。

 中小企業(事業所規模5〜29人)に限れば、前年比▲2.0%減の30万1908円と、全体平均を上回る減少幅になるとみています。大企業に比べて価格交渉力の劣る中小企業では、原材料価格上昇によるコスト増や人件費負担の増大を価格に転嫁することができず、企業収益をよりいっそう圧迫するとみられるからです。

 こうした大企業との収益力格差は、支給月数の差となって表れるのはもちろんのこと、所定内給与にも影響を及ぼします。先ほど所定内給与が弱含んでいると指摘しましたが、前年を下回っているのは事業所規模5〜29人の中小企業だけで、30人以上の事業所では、小幅ながらもプラスを維持しています。中小企業では、支給月数、所定内給与の双方が賞与の下押し要因として作用するため、相対的にマイナス幅が大きくなるわけです。

 なお、パート比率の違いなどから業種によってボーナス支給額は大きく異なります。主要業種でみると、製造業では約32万円、労働者が最も多い卸・小売業(シェア3割弱)では28万円程度となる見込みです。

提供:株式会社TKC(2007年12月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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