Q&A経営相談室
【地 震】
緊急地震速報システムを工事現場で活用したい
 
Q:
 「緊急地震速報システム」を工事現場で活用したいと考えています。導入にあたっての留意点などを教えてください。(ビル建設業)
 
<回答者>東京海上日動 リスクコンサルティング 山田秀樹

A:
 緊急地震速報は、地震の発生直後、震源近くで観測されたデータを気象庁が解析し、各地での大きな揺れの到達時間や震度を推定・配信するものです。この緊急地震速報は、平成18年8月より製造業や鉄道など約560の企業などで先行利用されていましたが、今年10月からは一般への提供サービスも始まります。今回のご質問には、先行して導入・活用している建設会社の事例を交えてお答えします。
 建設現場では、緊急地震速報を活用することで、大きな揺れが数秒から数十秒後にくることを現場で働く人々に伝えることができます。現場では、@作業を停止し、ガスバーナーや電気カッターなどをオフにして危険な場所から離れる、A工事用エレベーターを最寄り階に自動停止させる、Bタワークレーンを停止させる、などの対応策を取ることで、安全確保が図れると考えられます。
 気象庁のウェブサイトには、戸田建設の活用事例が紹介されています。戸田建設が手掛けた長野県松本市の工事現場では、今年7月の新潟県中越沖地震の際に配信された緊急地震速報を揺れの到達する約30秒前に受信、そして約20秒前には「到達時間と震度」を確認し、作業・重機の停止を指示することで安全確保ができたといいます。これなどは建設現場における緊急地震速報の有効性を端的に示す好例といえるでしょう。
 その一方で、東京都中央区の工事現場のケースでは、約42秒前に「到達時間と震度」を確認し、クレーン作業を止めるように指示しましたが、実際に停まったのは揺れが到達した後でした。クレーンのように安全に停止するまでに時間を要する重機に適用する際の課題が浮き彫りになりました。
 また緊急地震速報は、震源に近い場所では情報の受信が地震の揺れの到達に間に合わないこともあり、こうした緊急地震速報の限界を十分に理解したうえで活用することが極めて重要といえます。

システム導入の注意点

 工事現場では、実際に緊急地震速報のデータを受信する現場事務所からその先の現場への伝達方法は、携帯電話や無線LANなどを使うことになります。しかし、何らかの理由で電波自体が携帯している機器に届かないことや、工事による大きな音に邪魔され、情報が到達したことに気づかないことも考えられます。作業員一人ひとりが機器を携帯するのであれば、機器自体が振動するタイプのものや、双方向通信が可能なものがよいでしょう。全員に確実に伝わるという意味では、構内放送を用いたサイレンの使用も一つの手段です。
 また、緊急地震速報を受信した際にどのような行動を取るべきなのかを導入時に決めておくことも重要な事項です。例えば、構内放送を用いたサイレンを使用する場合には、「到達時間や震度」を伝えることはできないので、「サイレンが鳴ったら、大きな揺れに備えて作業をやめて、落下や倒壊の恐れがある危険な場所から離れ、身を守る体勢をとること」といったシンプルな行動指針を定めることも一つの考え方です。さらに、JV(ジョイントベンチャー)のように複数の会社の作業員が共同で働いている場合には、緊急地震速報システムを現場でどのように運営しているのかを全員に周知することも現場責任者の重要な責務となります。
 大きな揺れから身を守る方法は、作業内容や工事の進捗状況によって違ってくることも考えられます。システム導入と併せて現場の実態に即した活用法を考えることが重要となります。

提供:株式会社TKC(2007年10月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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