Q&A経営相談室
【法 律】
約束手形を電子化する「電子記録債権制度」とは
 
Q:
 今国会に提出された「電子記録債権制度」は手形を電子化するものだと聞いています。その具体的な仕組みと利用法について教えてください。(建設業者)
 
<回答者>日本総合研究所 調査部金融ビジネス調査グループ
主任研究員 藤田哲雄

A:
 電子記録債権制度とは、権利の発生または譲渡について法律の規定による電子記録が必要な新しい類型の金銭債権を認める制度です。今年3月14日に、法務省および金融庁から「電子記録債権法案」が国会へ提出されました。当初、この制度は検討段階において電子債権もしくは電子登録債権と呼ばれていましたが、法案提出時に電子記録債権という名前になりました。
 
電子記録債権は手形や指名債権に代わり、主務大臣から指定を受けた「電子記録登録機関」が当事者の申請に基づいて電子的に記録することによって、権利を発生させたり、譲渡させたりする新たな債権です。また、同債権は発生の原因となった法律関係の無効等の影響を受けないこと、法律上手形と同様の流通確保のための規定が存在すること、電子記録保証に原則的に独立性が認められていることなどから、基本的に手形に似た内容・性質を有しています。

「制度」導入の狙い

  なぜ電子記録債権制度が導入されることになったのかといえば、平成15年に策定された「e-Japan戦略2」で、ITを活用した中小企業の円滑な資金調達環境の整備を目的に、電子手形サービスの普及が盛り込まれたからです。すなわち、中小企業が受取債権を活用して資金調達する場合、指名債権では譲渡手続きが煩雑であるし、手形を割引くにしても、大企業を中心に、現物管理の手間や印紙税を回避するために手形の発行枚数を減少させているため、中小企業には一定の制約がありました。

 これに対して電子記録債権では、現物管理の手間や譲渡対抗要件の具備などが不要になるため、債権を担保とした資金調達が容易になると考えられています。加えて、電子記録債権は増大する電子商取引を決済部分まで電子化することが可能になるため、手形の支払猶予機能を継承しながら消し込み作業の自動化も可能になるなど、電子商取引の効率化にも資するものと期待されています。
 電子記録債権法案が今国会で成立した場合、公布の日から1年6ヵ月以内に施行される予定です。従って、遅くても平成21年初めまでには利用可能となっているものと見られます。もっとも、法律レベルでは細部が確定していないため、政省令に加えて、各電子債権記録機関における約款及び業務規定によって実際のサービス内容が決まるものと思われます。
 それでは、実際に中小企業ではどのように利用されるようになるのでしょうか。電子記録債権が構想された当初は様々なビジネスモデルが検討されましたが、まずは電子手形としての利用が普及するものと見られます。
 電子手形が中小企業で利用できるようになると、一括決済や期日振込などでは難しくなっていた期日前の資金化など、手形の機能を回復しつつ、電子手形ゆえの付加機能と利便を享受できるようになります。すなわち、手形と同様の決済・信用取引機能のほか、分割・相殺などの付加機能、電子的記録を活用した機能拡張など、電子手形の利用によって、決済分野での機能向上・拡張が進むものと期待されています。

提供:株式会社TKC(2007年7月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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