Q&A経営相談室
【知的財産】
登録しないと店の名前が使えなくなる?
 
Q:
 「小売等役務商標」制度が4月から施行されたことで、今の店舗名を守るには移行措置期間の7月2日までに出願しなければならないと聞きました。本当でしょうか? また、そもそもこれはどんな制度なのでしょうか。(衣料品小売業)
 
<回答者>弁理士 酒井昭徳

A:
 
商標制度とは、そもそも商品やサービスに独自のマークを付けることで他人の商品やサービスと区別させ、自己の商品やサービスを保護する制度です。従来、小売業においては、取扱う商品について商品ごとに商標登録を受けることで、商品に付ける値札や折込みチラシ等に表示する商標は保護されていましたが、小売業者の店舗名等の看板や店員の制服等に表示する商標は保護されませんでした。
 平成19年4月1日から施行された小売等役務商標制度とは、小売業者の販売行為等もサービスであることに鑑みて、小売業者又は卸売業者が店舗の看板、店員の制服、名札、帽子、ショッピングカート、レジスター等に使用する商標をサービスマークとして保護する制度です。この制度のメリットは、小売業者が自らの店舗を他の小売業者の店舗と区別させるための独自の商標(店舗名を含む)が保護される点です。
 対象となる業種は、衣料品店のほか、八百屋、肉屋、酒屋、本屋、家電量販店、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター、百貨店、卸問屋など、あらゆる小売業、卸売業です。またカタログ、テレビ、インターネットを利用した通信販売業も対象となります。

頻度の高い店名は登録できず

 ただし、全ての小売業者等の商標が対象というわけでありません。従って自店舗名の商標を出願する必要性については十分検討すべきです。例えば「佐藤洋品店」「鈴木商店」「三河屋」「テーラー田中」などのように、店舗名が多くの事業者に使用されていると考えられる場合は、いずれの事業者もその店舗名のみで商標を登録することはできません(ただし全国的に有名になっていれば登録できる可能性はあります)。従って前述のような店舗名であれば、自店舗名として使用できなくなるということはありません。
 仮に他の小売業者に登録されてしまっても、平成19年4月1日以前から使ってきた商標(店舗名)であれば、その範囲で従来通り使い続けることができます。つまり、このようなケースはそもそも出願する必要がないということです。
 なお、引き続き商標が使用できる場合であっても、その商標登録の権利者から、顧客等が混同することを避けるために営業地名等を付すなどして区別してほしいと求められることがあり得ます。この場合は当事者間で話し合うことになります。

他と区別できれば登録は可能

 一方、店舗名に図形を付けるなどして他人の商標と区別することができれば、店舗名を含めて登録することができます。つまり、その商標と同一又は類似する商標を用いて他人が小売業等を行うことを禁止できるということです。従って顧客が自店舗と他の小売業者の店舗を混同するというような、他人に真似されることによる不利益を受けずに済み、自店舗の業務上の信用を維持できます。このような場合は出願を考えても良いかと思います。
 商標出願をする場合、同一又は類似する商標であれば早いもの勝ちで、最も早い日に出願した者にのみ商標権が与えられます。従って出願するのであれば1日でも早いほうが良いのです。ただし平成19年4月1日から3ヵ月間(同年7月2日まで)に出願された複数の小売等役務商標が競合した場合は、同じ日に出願されたものとして扱われることになっています。そして出願人同士が協議を行い、協議で定めた一方の出願が優先されます。
 小売等役務商標については、これらを考慮の上、出願するかどうかを決めると良いでしょう。

提供:株式会社TKC(2007年6月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
戻る ▲ ページトップへ戻る