Q&A経営相談室
【労務管理】
年末にかけて社員の飲酒運転が心配だが
 
Q:
 飲酒運転による死亡事故が全国で相次ぐなか、年末にかけての社員の飲酒運転が心配です。飲酒運転防止策としては何が有効でしょうか。(建設業)
 
<回答者>日本損害保険協会 岩崎 武

A:
 飲酒運転の有効な防止策を考えるには、まず飲酒運転の背景を探る必要があります。飲酒運転が減らない背景には、大きく分けて次の2つがあると思います。
 1点目は、お酒に寛容な日本の社会や組織風土があげられます。会合でも酒飲みがリーダーシップをとる面がいまだ見受けられます。こういう風土があると、「一杯くらい」と勧められて気が緩み、「運転するのについ」という状況になりがちです。
 それから2点目として、アルコールに関する無知があると思います。「お酒を飲んでも一眠りすれば、アルコールが抜けるから車を運転しても大丈夫だ」という意識でいる人が未だに多いのです。ちなみに日本酒を二合飲んだ場合、アルコールが抜けるのには体重が60キロの人で6〜8時間かかります。つまり翌朝6時までに車を運転するのに午前零時過ぎまで飲んでいたら、間違いなく飲酒運転になります。


飲酒運転防止の対策

 では、社員の飲酒運転を防ぐためにどのような対策が有効なのでしょうか。3つほど紹介します。
 まず1つ目としては、お酒に寛容な組織風土を変えることが重要です。関西のあるバス会社では、飲酒を伴う社内行事をすべて廃止したといいます。そこまではいかずとも会社主催の宴会を開催する場合は、幹事が最初の挨拶のときに、車で来ている社員には絶対に飲ませないように周囲に徹底させたり、乾杯の時からソフトドリンクを用意したりするなどの配慮や、お酒が飲めない人も楽しめる企画や料理を用意することなどが必要となります。
 そして2つ目として、社内でアルコール問題に関する啓発を行うことが挙げられます。具体的には、社内報等にアルコールの与える影響等についての記事を掲載したり、新人研修や管理職研修の中に、アルコール問題の教育を盛り込むことが考えられます。
 また、毎朝お酒臭かったり、遅刻が多い社員には、本人が自覚していなくてもアルコール依存症またはその予備軍である可能性があるので、外部の専門機関の研修を受けさせることも必要です。
 そして3点目は、就業規則で飲酒運転の処分を厳しくすることです。例えばある大手アルコールメーカーの場合、「公私の別なく飲酒運転をおこなったものは論旨退職以上(論旨退職か懲戒解雇)になる。なお、懲戒処分の最終的な適用は、情状等も勘案し、懲戒委員会によって決定する」という厳格な就業規則を設けています。
 しかし厳しい処分は、飲酒運転の抑止効果は大きいといえますが、飲酒に寛容な組織風土を残したまま処分を厳しくしても、処分を恐れて飲酒の事実を巧妙に隠したり、仲間内でかばったりして、アルコール依存症を進行させてしまうことがあるのも忘れてはならないと思います。つまり、啓発・教育活動と管理(就業規則の厳格化)がセットになってはじめて有効な飲酒運転防止対策となるわけです。
 企業は一度、飲酒運転を起こせば、社会からの信頼を失い、その回復のために多大な費用と時間を費やすことになります。従業員教育や就業規則による対応などの対策を講じ、モラルの高い社員を育成することは、企業にとって自らの経済活動を円滑に進めていくばかりでなく、「企業の社会的責任」を果たすことになるはずです。

 

提供:株式会社TKC(2006年12月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
戻る ▲ ページトップへ戻る