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万引きの被害は、多くの小売店が頭を悩ませている問題です。
特に利幅の少ない書店経営では、売上の1〜2%にも及ぶといわれる万引きを放置するわけには行きません。
万引きの防止には、商品に取り付けた防犯タグを外さずにゲートをくぐると警告音が鳴るセキュリティ機器の導入がある一定の効果を上げています。
しかし、電子的なシステムはたいへん高額な投資になりますし、書籍や雑誌という商品の性格上、防犯タグの取り付け方法に制約が出るため、大型店ならばともかく、小規模な書店ではあまり現実的とは言えないでしょう。
中小規模の書店でまず考えられる万引き防止策としては、防犯ミラーや防犯カメラを設置して、できる限り店内の死角をなくすことです。可能であれば、店内のレイアウトや書棚などの什器を変更する(高さを変える)ことも検討して下さい。レジ位置を店内が見渡せる場所に配置し、死角になる棚にはマンガや高価な写真集など、青少年向けの商品や転売しやすい商品を置かないなども重要です。
大事なことは、万引き犯の心理を踏まえて、万引きのしにくい店という環境をつくり上げることです。
たとえば大手の衣料品店チェーンなどでは、従業員が売場の整理をしながら来店客に声掛けをしている姿が当り前のように見られます。入店時の「いらっしゃいませ」に始まって、「何かお探しですか?」とか「こちらは今年の新商品です」など、タイミングを見計らいながら店内のお客に声を掛けています。
ひるがえって、商店街にある個人経営の書店では、経営者や従業員はレジ前に陣取ったままで、入店したお客に声も掛けずに下を向いているようなケースをしばしば見かけます。
万引き犯は、何よりも店側から見られているという環境を嫌います。小規模な店であればこそ、むしろ店内のお客に積極的に関心を持ち、「どんなお客がどんな本を見ているのか」と、良く観察してみてはどうでしょうか。
来店して「こんな本はありますか?」と尋ねるお客は決して少なくないはずです。ということは、実際にはその何倍ものお客が、黙って書棚を探すだけで帰ってしまっているということです。つまり、これには万引き防止だけではなく、販売機会ロスを防ぐ一石二鳥の効果があると言えるでしょう。
また、書店で万引きをする者の多くは小中高生などの青少年ですが、少年とはいえ犯罪の傾向も悪質化しています。万引きを発見した場合も、むやみに店外まで追いかけたりする行為は、さまざまな危険が伴いますから注意して下さい。書店ではありませんが、実際に逃走する万引き犯のクルマにしがみついたために、命を落とした経営者の事例もあります。
いずれにしても、万引きはつかまえることよりも、させない環境づくりへの努力が大事でしょう。
アメリカに「割れ窓理論」という言葉があります。空き家となった建物の「割れた窓ガラス」を放置しておくと、その周辺は治安管理が行き届いていないと認識され、しだいにその建物の周囲から荒廃し、やがては犯罪などの温床になるという考え方です。
万引きをする者たちには、彼らなりの情報網があります。「あの店は万引きをしにくい店だ」と思われるように、ふだんの営業の中で来店客に積極的に関心を持ち、声を掛けたり、気軽に会話ができるような環境づくりが、結局のところいちばん低コストで効果的な防止策なのではないでしょうか。
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