Q&A経営相談室
【危機管理】
自社物件の耐震性を調べるには
 
Q:
 自社物件である賃貸マンションの耐震性を調べたいが、どこに依頼すれば、あるいは何に注意したらよいのでしょうか。(運送業)
 

<回答者>東京海上日動リスクコンサルティング
主任研究員 1級建築士 東 知宏

A:
 現行の耐震設計基準いわゆる新耐震設計法は、数度の大地震による被害経験を踏まえて81年6月に改正施行されました。95年の兵庫県南部地震では、81年以前の旧建築基準法で建てられた建物に被害が集中しました。従って81年以前に設計された建築物については、大地震時に倒壊、崩壊する危険性がないかを確認するために耐震診断を実施する必要があります。
 一方、81年6月以降に設計された建築物については、1階がピロティ形状などの特殊なものを除いて、基本的な耐震性能は確保されています。
 耐震診断については、地方公共団体に相談窓口が設置されています。また、(財)日本建築防災協会ホームページに、(社)日本建築士事務所協会連合会から提供された、耐震診断、耐震改修設計を業とする建築士事務所一覧が都道府県別に掲載されていますので参照されるとよいでしょう。
 耐震診断は設計図書などの技術資料と現地調査による情報に基づいて実施されます。従って、建設時の設計図書が現存しない場合には、設計図書の復元作業から始める必要があり、診断費用もより高額となります。まず、竣工図面などの設計図書が現存しているかを確認することから始めてください。
 81年6月以降に設計された建物について耐震性を確認したい、つまり新耐震基準に準拠した建築物であるが、違法性や重大な過失がないかどうかを確認したいということであれば、問題は全く別の範疇で、耐震診断と同列で扱うことはできません。
 選択肢としては第三者による構造計算書のレビューや構造計算のやり直しが考えられます。しかし、どこまで詳細に行うかによって必要な費用や結果は異なります。都道府県の建築士事務所協会や建築士会に相談するなど、信頼できる建築士(建築構造技術者)に検討を依頼されてはいかがでしょうか。
 構造計算書のレビューは、構造計算書や設計図書などの書類上で審査できる範囲で、建築基準法や関連規定上妥当であるかを判断する行為です。重大な過失や明らかに違法と判断されるものは、この段階で抽出することが可能と言えます。費用は規模や依頼内容により異なりますので、その都度見積もりを取るようにお勧めします。しかし、計算プログラムの内部を操作するような巧妙かつ悪質なものまでは、発見するのは困難とも考えられます。
 構造計算をやり直すという方法は、費用も相応に必要となります。詳細な計算結果と共に過失等についても見い出せると考えられます。しかし、たとえ過失や違法行為がなくとも計算結果は異なることがあります。構造設計のプロセスは構造計画から始まり、荷重の仮定、建物のモデル化、剛性評価、応力解析、部材の設計、安全率の設定、結果の評価と一連の流れで成り立っており、構造設計者各自の判断が要所に含まれていますので、設計者が異なれば当然結果も異なります。また、全ての計算条件を同一にしないと同じ結果は得られません。
 建物の原設計者の工学的判断や考え方に対して、別の設計者が全く同じように考えることはむしろ極めて稀といえます。同時にまた、全く同じ条件で再計算することは、本来最も重要な構造計画やモデル化などについて、それが妥当かどうかの判断を行わずに無条件で受け入れてしまうことになりますので、第三者に検討を依頼する意味が薄れてしまいます。様々な計算条件の設定や判断も含めて再計算を依頼する場合、最終的な計算結果は数値上で10%から20%程度変動する可能性があります。上記の内容をご理解の上、建物全体としての総合的な耐震性の評価を依頼されるとよいでしょう。

提供:株式会社TKC(2006年7月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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