Q&A経営相談室
【コンプライアンス】
公益通報者保護法施行で留意すべきは
 
Q:
 公益通報者保護法が施行されました。事業活動を行ううえで企業経営者が留意すべき点についてお教えください。(リサイクル業)
 
<回答者> 東京弁護士会 公益通報者協議会議長  弁護士 桑原周成

A:
 2002年1月、雪印食品が外国産牛肉を国産牛肉と偽装して国に買い取らせた産地偽装事件が新聞紙上を賑わしました。牛肉を保管していた倉庫会社の社長が、事態が拡大しないうちに収拾すべく雪印食品へ通報したにも拘らず同社が聞く耳を持たなかったため公表されるに至ったのでした。
 都合の悪い事実を突きつけられても、そのような事実から目をそらしたくなるのが人情ではあります。しかし、そのようなことをして不利益を蒙るのは当の事業者に止まりません。2002年7月に発覚した三菱自動車のリコール隠し事件では、その後も隠匿が続けられた結果、2件のタイヤ脱輪死亡事故まで引き起こしてしまいました。一般市民を巻き込んだ被害を引き起こした三菱自動車のその後の運命は、皆様もよくご存知の通りです。
  このような企業不祥事の続発という社会情勢を背景として、この4月1日から公益通報者保護法が施行されるに至りました。同法は、労働者が一定の要件の下に企業内部や行政機関あるいは企業外部に対して、企業内部の一定の犯罪行為や法令違反行為を通報した場合、解雇などの不利益処分をしてはならないと定めています。内部通報、行政機関への通報、外部通報と進むに従って公益通報として保護される要件が厳しくなっています。できるだけ企業内部への通報を誘導することによって自浄作用を高め、公益通報の実を挙げようとの狙いがあるからです。ただし、公益通報者は前記3種の通報方式を順次踏まえなければならないわけではありません。

公正な社会を実現するために

 企業(派遣労働者など雇用主と労務提供先が異なる場合は後者)には、法施行に伴って企業内部に公益通報窓口を設けることが期待されています。この窓口は、「通常の指揮命令系統から独立した企業倫理ヘルプラインであること」(日本経団連の企業行動憲章より)が望まれますが、従業員が少ない会社では社長直轄の窓口でもやむを得ないでしょう。しかし、設置に際しては、公益通報者の秘密保護が図られねばなりません。そうでなければ労働者は怖くて公益通報などできなくなってしまうからです。そのためには公益通報窓口を法律事務所に置くことも考慮されてよいと思います。東京弁護士会(TEL 03-3581-2201)では、企業の要望にも応えるべく法律事務所の紹介も行っていますので、お気軽にご相談ください。
 内部通報を受けた企業は、通報対象事実の有無を調査しなければなりません。調査を開始する場合は、速やかに通報者にその旨の通知をすべきです。公益通報から20日を経過しても通知がないと、外部通報の要件をクリアーする可能性が出てくるからです。
 調査の実施に当たっては、通報者の秘密を守るため、通報者が特定されないよう調査方法に十分配慮する必要があります。
 そして、調査の結果、法令違反等が明らかになった場合には、速やかに是正措置及び再発防止策を講じるのは当然のこととして、それらの措置等について、通報者に遅滞なく通知しなければなりません。
 日本社会の透明性を高め、公正な社会を実現することは、日本の信頼性を高め、結局のところ企業のためになることなのです。目先の利益にとらわれて、通報者を「仲間を裏切った人間」扱いにするような中小企業経営者がいるとしたら、この際根本的な意識改革が必要と思われます。

提供:株式会社TKC(2006年7月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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