Q&A経営相談室
【法  律】
「秘密保持契約書」を結ぶ際のポイント
 
Q:
 近く発売することにしているX製品をA社にアウトソーシングして、OEM供給してもらうことを考えています。このとき「秘密保持契約書」を結ぶことが必要だといわれていますが、そのポイントを教えてください。(精密機械メーカー)
 
<回答者>弁護士 末吉 亙

A:
 不正競争防止法による営業秘密の保護が注目されています。ただ秘密情報は秘密管理しないと知的財産としての価値を喪失します。そこで企業が秘密情報を他社に開示する場合、必ず秘密保持契約を締結して秘密管理しなければなりません。秘密保持契約は目的を特定して秘密情報を開示し、「秘密情報の使用条件を遵守する義務」と「秘密保持義務」を明確に設定するところに本質があります。以下にご質問者の甲がA社(乙)に対して秘密開示する場合の契約書のポイントを示します。

(1)契約目的
 「甲は乙に対し、OEM契約締結の可否検討の目的で、本契約に従い甲の秘密情報を開示する」のように契約目的を明示します。この規定により、後記(3)、(5)が明確になります。

(2)秘密開示
 「甲は乙に対し、本契約書締結後○日以内に、甲の秘密情報である『甲の工場で実施しているX製品の製造条件の全て』(以下「本件情報」)を開示する」のように秘密開示を規定します。ここでの秘密特定を慎重に行います。

(3)使用に係る乙の義務
 「乙は、甲から開示を受けた本件情報について、本契約の目的及び別紙記載の使用条件に従って使用しなければならず、甲の文書による事前の同意なしに上記目的以外に使用してはならず、かつ、上記使用条件に違反して使用してはならない」のように乙が本件情報を使う場合の義務を規定します。別紙記載の使用条件はたとえば、「乙において本件情報を利用できる者を限定し、この者と乙が本契約と同等の秘密保持契約を締結すること」です。さらに、上記条項違反の場合の罰則条項を加える例もあります。

(4)秘密保持に係る乙の義務
 「乙は、本契約の存在及び内容並びに本件情報を甲の文書による事前の同意なしに第三者に提供、開示、又は漏洩してはならない。ただし、次のiivのいずれかに該当することを乙が証明できる情報については、この限りではない」「i 開示を受けた際、既に自ら保有しまたは第三者から入手していたもの」「ii 開示を受けた際、既に公知公用であったもの」「iii 開示を受けた後、自己の責によらずして公知公用となったもの」「iv 正当な権限を有する第三者から合法的に取得したもの」のように本件情報の秘密保持義務を規定します。さらに、「乙は、本件情報について、万全の体制で秘密管理しなければならない。甲は乙に対し、この秘密管理について必要な指示をすることができる」と規定する例もあります。

(5)契約目的達成の場合の措置
 (1)の目的が達成された後、その目的に即して次の段階に進むことになりますが、その場合の措置(OEM供給契約の締結等)を規定します。

(6)知的財産権の取り扱い
 「本件情報の開示の結果生じた産業財産権等の知的財産権については、甲乙別途協議するものとする。ただし、本契約以前に各自が保有していたもの、あるいは相手方からの情報によらずして成したことが証明できる知的財産権は、甲乙それぞれに帰属するものとする」のように規定します。

(7)損害賠償
 「乙は、本契約で定める条項に違反した場合、その違反により甲が受けた全ての損害につき甲に賠償しなければならない」のように規定します。

(8)有効期間
 「本契約の有効期間は締結後○年間とする。ただし、甲及び乙の協議により、当該有効期間を延長することができる」のように規定します。

(9)期間終了後の取り扱い
 「本契約が終了した場合、乙は、本件情報を使用してはならない。乙は、甲からの指示に全て従うものとする」のように規定します。違反の場合の罰則規定、契約終了後有効な規定の創設規定等を加える例もあります。

提供:株式会社TKC(2006年5月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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