Q&A経営相談室
【税  制】
相続時精算課税制度の利用法と注意点
 
Q:
 精密部品メーカーを経営していますが、そろそろ長男にバトンタッチしようかと考えています。その際、知人から「相続時精算課税制度」を利用してみたらどうかといわれました。この制度の詳しい内容を教えてください。(精密部品メーカー)
 
<回答者>税理士 仲川勝利

A:
  ご質問の「相続時精算課税制度」とは高年齢者の持っている財産を次世代に贈与しやすくし経済の活性化につなげようと平成15年度の税制改正で導入された贈与税の課税制度です。
 贈与税の課税制度は、従来は暦年課税の制度でしたが、平成15年1月1日以後に財産の贈与を受けた人は、一定の要件に該当すれば相続時精算課税を選択することができるようになりました。この制度は、文字通り贈与を受けたときは一定の方法で計算した贈与税を納めておき、贈与した人が亡くなって相続が発生したときに、贈与を受けた財産を相続時の財産に加算して相続税の計算をします。そして、贈与を受けたときに納めた贈与税を控除して相続税の精算を行います。
 このときに相続税が既に納めた贈与税より多ければ相続税を納めます。逆に、既に納めた贈与税が相続税より多ければ還付を受けます。その適用条件は6つあります。

1. 贈与する人(贈与者)は65歳以上(住宅等取得資金の場合、年齢制限はありません)の親。
2. 贈与される人(受贈者)は20歳以上の子(推定相続人)。
3. 贈与財産の種類、金額、贈与回数に制限はありません(住宅等取得資金については特例があります)。
4. 同制度を選択するときは贈与を受けた翌年の贈与税の申告時に「相続時精算課税選択届出書」を提出し、戸籍謄本等の必要書類を添付します。
5. 同制度を一度選択すると同じ贈与者の贈与についてはその贈与者の相続時まで継続適用されるので、途中で暦年課税に変更するこはできません。
6. 同制度は贈与者(父または母)ごとに、また受贈者(兄弟姉妹)ごとに選択ができます。

事業承継に利用する場合

 さて、この制度を利用した場合、贈与税の計算は「(贈与財産の価額−2500万円)×20%」となります。
 特別控除額の2500万円(住宅取得等資金の贈与の場合は1000万円が加算されます)は複数年にわたり利用できますが、累積限度額です。つまり、初年度で1000万円の贈与を受けていれば、次年度以降は1500万円が特別控除の限度額となります。
 甲株式会社の社長A氏と妻Bさんは甲社の株式をそれぞれ50%所有していました。甲社は資本金1000万円の会社ですが、株式の評価額は約5000万円になっていました。高齢になってきたので、長男のC氏に社長を任せ株式も贈与したいと考えていました。子供は長男の他に2人おり、相続になれば甲社の株式がC氏に円満に相続されるかどうかが心配でした。
 そこで顧問税理士に相談したところ相続時精算課税を勧められ、A氏とBさんが持つ株式全部をC氏に贈与することにしました。C氏は父A氏、母Bさんからの贈与に対して、それぞれ2500万円の特別控除があったため、贈与税を納税することなく、甲社の株式を承継することができました。これによって、株式が分散する心配もなくなり、会社の経営にも一段と専念することができようになりました。
 ただし、同制度を利用するにあたってはいくつか注意しなければならない点があります。一つは一度選択すると、以後変更ができないので暦年課税との比較検討が必要です。二つ目は、相続時に加算される贈与財産の価額は贈与時の評価額となるので、贈与財産の将来性を検討しておくことが必要です。
 いずれにしろ、同制度を利用するにあたっては、検討すべきことが多いため、専門家に相談されることをお勧めします。
 

提供:株式会社TKC(2006年3月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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