Q&A経営相談室
【法 改 正】
改正労働安全衛生法の中身と対策
 
Q:
 長時間働く従業員のメンタルヘルス対策を企業に促す、改正労働安全衛生法が今年4月から施行されると聞きました。その内容を教えてください。(印刷業)
 
<回答者>社会保険労務士 三留敏明

A:
  企業間競争の激化や働き方の多様化が進む中、自主的な安全衛生活動の不足に伴う重大災害が発生しています。さらに、業務が集中する労働者の長時間労働に伴う健康障害の増加や子育て世代の生活時間確保の困難化、並びに、移動に際しての保護の拡充が必要な単身赴任者、複数就業者の増加など、労働者の生命や生活に関わる問題が深刻化し、的確な対処が求められています。このような状況を背景として、労働安全衛生法等(労働安全衛生法、労働者災害補償保険法、労働保険徴収法、時短促進法の4法)の一部が改正され、本年4月1日から施行されます。
 この改正は、危険性・有害性の低減に向けた措置や加重労働・メンタルヘルス対策など安全衛生活動等について、関係者の自主的な取り組みの促進等を図ろうとすることがポイントです。
 改正の内容は、次の通りです。


1.労働安全衛生法の改正点
(1)危険性・有害性の低減に向けた事業者の措置の充実(詳細省略)。
(2)過重労働・メンタルヘルス対策の充実。
1) 事業者は、一定時間(月100時間)を超える時間外労働等を行った労働者を対象とした医師による面接指導等を行うこと。
2) 事業者は、面接指導の結果の記録、結果に基づく必要な措置についての医師の意見聴取、必要があると認める場合には作業等の変更、衛生委員会への報告等の措置を講ずること。
3) 事業者は、1)の面接指導を行う労働者以外の労働者で健康への配慮が必要なものについて、必要な措置を講ずるように努めること。

2.時短促進法の改正点
  「年間総実労働時間1800時間」を目標とする労働時間の短縮の推進を図る法律から、労働時間等の設定を労働者の健康と生活に配慮したものへ改善することなど。

バランスある人事・労務管理を

  労災認定の推移では、メンタルヘルスに関わる精神障害の認定件数は、平成11年度の14件から平成15年度は108件(7.7倍)、ストレスや長時間労働に関わる脳・心臓疾患の認定件数は、平成11年度の81件から平成15年度は312件(3.9倍)となっています。もちろん、これ以外にも表面に出てこないものが膨大にあると推測されます。私も管理職研修を行うことがあり、管理職が30人くらいいれば、出社拒否やうつ病などの問題がある部下を抱えている方が少なからずいるのに驚かされます。
 また、時短促進法の改正により、これまでの目標である1800時間の総枠は取り外され、今後は労使間の自主的な取り組みに委ねられることになります。ちなみに、平成16年度の総実労働時間は月平均151.3時間(年間1816時間)で前年比0.2%の増加、所定内労働時間が月平均141.0時間(前年比0.2%減)、所定外労働時間が10.3時間(前年比3.3%増)となっています。
 職場における安全対策やメンタルヘルス対策は、職場の物理的な環境や長時間過密労働、あるいは業績や人間関係などの過度のプレッシャーと大きく関わっています。ストレスの感じ方は人によって異なり、対応能力を超えてしまうと、健康を損なうことになります。ストレスは、仕事以外の要因や上司・同僚・家族からの支援により軽減することができます。企業は、規律性と柔軟性のバランスがとれた人事・労務管理が求められます。

提供:株式会社TKC(2006年1月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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