Q&A経営相談室
【危機管理】
建築物に使われたアスベストへの対処法
 
Q:
 工場の天井にアスベストが吹き付けられています。従業員の健康のためにも早急に除去工事をしたほうがよいのでしょうか。(機械部品メーカー)
 
<回答者>国立保健医療科学院 池田耕一

A:
 一定量以上を吸い込むと数十年の潜伏期間を経て、中皮種や肺がんを発生させる恐れのあるアスベスト(石綿)。耐熱性、絶縁性に優れていることから、建築物の壁や天井の被覆などに使われていました。しかしここにきて、その危険性が大きくクローズアップされるようになりました。それを受けて、自社の工場や倉庫の天井に吹き付けられているアスベストに不安を感じる企業は増えているようです。
 しかし誤解してはならないのが、最も危険と考えられる天井などに吹き付けられているアスベストでさえ、変な働きかけをせずにそっとしておくかぎり、特に心配しなければならないほどの高濃度にはならないということです。天井がボロボロでアスベストが日常的に空気中に飛び散っているような状態でなければ、急いで除去工事を行う必要性はないといえます。アスベストを含んだ建材があるというだけではそれほど大きな問題ではないのです。一番まずいのは、アスベストがあるのが気持ち悪いからといって、あわてて自分たちで切り刻んだり、叩いたりして、はがそうとすることです。
 ただ、どうしても気になるというのでしたら「除去」ではなく、「封じ込め」や「囲い込み」に重点を置いた対策をとることをお勧めします。具体的には、吹き付けられているアスベストを塗料や接着剤で塗り固めたり、上から板やビニールなどで覆ってしまう措置をとるのです。それでも心配というのなら、建物全体の換気量を増やすとともに、「空気清浄機」を設置してください。アスベストが粉塵である以上、空気清浄機には効果が期待できます。要は、従業員が空気中に浮遊するアスベストを長年にわたり吸い続けるような環境を作り出さないようにすればよいのです。必要以上に神経質になってあわててアスベストを除去することはありません。

除去工事よりも建て替えを

 ここで、吹き付けアスベストの根本的解決法とみなされている除去工事が、なぜ勧められないのかを簡単に説明します。一つは、「除去工事を行うほうがかえって危険な場合がある」ということです。ある調査によれば、アスベスト除去工事を終えた後の数週間において、空気中のアスベスト濃度は工事前に比べて高いという結果も出ています。その理由としては、工事で飛び散ったアスベストがしばらくの間、建物内にとどまってしまうことなどが考えられます。わざわざ寝た子を起こして、危険な状況を作り出すことはないといえます。
 もう一つの理由は、「除去工事のコストが高い」ということです。除去工事期間中に発生する高濃度アスベストへの対処にそれ相応の費用が掛かることは言うまでもありませんが、除去したアスベストを廃棄処分するための費用も必要です。また、アスベストを取り除いたからには、それに代わる「ロックウール」(岩綿)などの耐火被覆材を新たに貼ることが必要で、そのコストも忘れてはなりません。それならばいっそのこと、建物自体を新たに建て替えてしまったほうが得策とさえいえます。工場の敷地面積にもよりますが、その方がむしろ安くつくケースもあるかもしれません。アスベストが盛んに使用されていたのは昭和30年代から40年代。その頃に建てられた工場は老朽化が進んでいるはずです。多大なコストを掛けてアスベスト除去工事をするくらいなら、新築したほうが気分的にもよいし、「根本的な解決法」ともいえます。 (インタビュー・構成/本誌・吉田茂司)

提供:株式会社TKC(2006年1月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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