Q&A経営相談室
【法  律】
公益通報者保護法の中身と留意点
 
Q:
 来春から「公益通報者保護法」が施行されると聞きました。その具体的な内容と留意点について教えてください。(食品メーカー)
 
<回答者>弁護士 池野由香里

A:
 企業の不正などを内部告発した労働者を解雇などの不利益から保護する「公益通報者保護法」が、平成18年4月1日から施行されます。その背景には、近年、食肉偽装問題や、鳥インフルエンザ問題など、匿名の告発がきっかけで企業不祥事が明らかになる事例が続発していることがありました。
 公益通報者保護法は、公益通報をしたことを理由として、公益通報者を解雇することを無効とすることなどを定めたものです。公益通報に関し事業者や行政機関がとるべき措置を定めることで、「公益通報者の保護を図るとともに、それにより国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の順守を図ること」を目的としています。保護されるのは、企業の従業員・派遣労働者、下請企業の従業員、公務員などです。
 この法律では、刑法などの法令に違反する行為を告発した場合の、解雇の無効、降格や減給などの禁止、派遣契約解除の無効などのルールが設けられました。これは、労働者等が企業との関係では弱い立場にあることから、違法行為の告発により地位が脅かされないよう保証することで企業内のコンプライアンス(法令遵守)を強化し、国民の生命・安全を守ろうというものです。ただし、これに違反して告発者を解雇・降格等した企業に対する罰則は定められていません。
 告発先は勤務先企業、行政機関、マスコミや消費者団体などですが、告発した労働者が保護される要件は、告発先によって異なります。
 例えば、勤務先企業に対する告発の場合には「不正等が生じ、または、まさに生じようと思われる場合」で足りますが、関係行政機関に対する告発の場合は「不正等が生じ、または、まさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合」とされ、要件がやや厳格になっています。
 そして、マスコミに対する告発者が保護されるためには、「勤務先企業に告発すると証拠隠滅の恐れがある」「生命・財産に危害が発生する」等の条件を満たすことが必要であり、最も厳格なものとなっています。

企業経営者の留意点

 さて、企業経営者が留意すべき点についてですが、内部からの通報があり、不正・不祥事が発覚した際、それらに対する是正措置を講ずるほか、通報者を不利益に取り扱わないようにすることが必要です。
 具体的な事案として、この法律の施行前の判例ですが、トナミ運輸事件という裁判例があり、参考になると思われます(富山地裁・平成17年2月23日)。この事案は、貨物運送会社に勤務する原告が、会社のヤミカルテル問題などの通報をマスコミや公正取引委員会等に行ったことを理由として、長年にわたり昇進させないなどの不利益取り扱いをされたことに対し、損害賠償請求を行った事案です。
 会社は「昇進しなかったことは、内部告発が理由ではない」などと、事実関係について争いましたが、裁判所は詳細な事実認定を行い、会社が内部告発が理由で不利益取り扱いを行ったと認定しました。そして、このような取り扱いは、人事権の裁量を逸脱したもので違法であるとし、約1350万円の損害賠償の支払を命じました。このような判決が出た場合、金銭的損害に加えて、企業のイメージに取り返しのつかない損失を与える場合があるので注意が必要です。
 こうした事態にならないためには、常に社内を風通しよくし、上も下も自由にものが言える、相談しあえる、批判しあえる職場にしておくことが、効果的かつ重要といえます。

提供:株式会社TKC(2005年9月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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