Q&A経営相談室
【経営戦略】
合併会社の社員を融和させるには
 
Q:
 M&A(企業の合併・買収)で同業他社を傘下に収めましたが、相手先の社員が当社のカラーや社員に馴染んでくれません。融和させるための方法を教えてください。(機械製造業)
 
<回答者> 日本能率協会コンサルティング チーフコンサルタント 富永峰郎

A:
 M&Aの目的は、他社の経営を支配するためではなく、自社と他社との相乗効果によって企業価値を高めることにあります。(フジテレビとライブドアの件で随分話題になりましたが)M&Aによる企業価値の向上は、コストダウンによる利益改善や、研究開発やマーケティングの相乗効果による売上拡大、ニュービジネスの創出などによってもたらされますが、それを実現する原動力として必要なのは、社員の融和による組織活性化です。それが上手くいかないと、社員の離脱、クレームの発生、効率の低下、法的問題の発生など、企業価値にとってマイナスとなる深刻なリスクが発生しかねません。
 太平洋セメントの社長は、小野田・秩父両社の合併を振りかえって、興味深いコメントをしています。「社内の形式的な融和策では本音は語られない。会社を離れた平場で酒を飲みながら本音で話さなければ、相手の考えていることは理解できない」「経歴の違うもの同士が本音で語り合うには、酒を飲んで語らうことが一番効果がある」「金の面倒は見るから社内融和のため社員同士の飲食経費を予算に計上しろと言って、1年間徹底して飲んだ」。
 このエピソードには、良くも悪くも日本の企業風土の特質をついた示唆があります。M&Aに手慣れた欧米企業の手法そのままのロジカルな企業統合プログラムが、日本において必ずしも好ましい融和をもたらさないのは、相互の信頼感を醸成する日本人固有のコミュニケーションの機会が不足している点にあると思われます。融和にあたっては、まず人と人、組織と組織の壁を低くするための、公式・非公式の場作りに最大限の配慮をすべきです。
 組織・人事問題は統合会社の象徴的な問題であり、融和策が建前なのか本音なのかの真価が問われます。たとえば「出身会社による差別をなくし、成果主義を徹底する」という統合の方針を打ち出しているなら、現実の組織編制、人事処遇や評価において、その精神を言行一致で具現化することが大事です。また人事制度の統合では、どんなタイミングでどんな統合をするかも重要な点です。筆者の経験では、遅くとも1年から2年のタイミングで人事制度の統合を実現することが必要です。
 

新しいカルチャーを創り出す

 合併や買収では、多くの場合痛みを伴う改革が必要であり、歯を食いしばってそれを乗り越える改革努力が求められます。一生懸命努力している人に対して、「この山を越えたら何があるのか」の長期的なビジョンを示し、高い次元で目的感を共有できれば融和策は成功するはずです。
 また、合併や買収の過程で、社員の精神は不安定になりがちです。社員の心のケアは、本来各職場の管理者が遂行すべきことですが、管理者自身も統合の過程で十分な役割が果たしきれないのが実態です。その対応策として、カウンセリングなどのメンタルヘルスの専門家を、社員の相談窓口に据えることなども考慮すべきです。
  上記の諸点を整理すると次の通りです。
(1) 社員の人間的な側面に着目し、融合の場づくりを最大限行う。
(2) 人事制度と組織機構を軸とした言行一致の改革をタイミングよく進める。
(3) この山を越えたら何があるのか、統合会社の将来ビジョンを具体的に示す。
(4) カウンセリングなどの窓口を設置し、社員の心のケアを行う。

 最後にいえば、融和を成功させるには、自社のカラーに馴染んでもらうのではなく、共に協力して新しいカルチャーを創り出していくという考え方が最も大切です。

提供:株式会社TKC(2005年4月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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