Q&A経営相談室
【法  律】
「e―文書法」の概要と企業へのメリット
 
Q:
 「4月から『e―文書法』という法律が施行されると聞きました。その概要と企業にとってのメリットや注意点などを教えてください」(衣料品卸)
 
<回答者>牧野総合法律事務所 弁護士 牧野二郎

A:
 この度成立したe―文書法とは、これまで紙媒体で保存し閲覧に供することが義務づけられてきた文書を、電子化して保存利用することを認めた法律です。すなわち紙のデータをスキャナ等で読み取ることで電子化・保存し、利用することを促進しようとするものです。これにより、企業は次のようなメリットを享受できると考えられます。
 第1に、保管コストの削減が可能になります。経団連の試算では、紙の保存コストは、倉庫代や人件費など総額約3000億円といわれています。これらの紙文書を電子文書とすることで、極めて小さな媒体に多量のデータが保存でき、保管スペースをほとんどとりません。そのため、管理コストや保管コストが激減すると見られています。
 第2に、文書利用にかかる人件費や郵送料が削減できます。文書データの場合には、閲覧のために倉庫に出向き、郵送のために封筒詰め作業をし郵送料を支払うなどが必要でした。電子データで処理する場合には、人は動かずに電子データの送受信だけで処理できるので、こうした関連のコストも削減できるのです。
 第3に、電子文書は、紙の文書と異なり、非常に高い検索性をもっています。これを利用することで、死蔵してきた紙の情報を活かして再利用することが可能となります。また、閲覧のために請求があった場合にも、電子データであれば一瞬で探し出すことができます。こうして、事業活動に新しい情報活用の道を開いたわけです。
 ただし、こうしたメリットを享受するには別のコストが必要となります。
 例えば、画像データとして保存する場合でもOCRによってテキストデータを付加する等の工夫は必要です。もっとも、最近のスキャナはそれを自動で行う機能を備えたものも多く、特別な作業・コストを払わなくても検索性等のメリットを受けることが可能です。
 また、電子データは、一度の事故で大量のデータ消失が生じる危険、漏洩・改変・偽造の危険を有しています。そのため、バックアップは必須であり、バックアップのための費用などが必要となります。偽造検出のための電子署名・タイムスタンプの付加、機密性保護のための暗号化なども必要でしょう。
 e―文書法は、あくまで電子化を「許容する」法律ですから、企業としては、これらのメリットとコストを比較して、電子化するかしないかを決めることができます。衣料品卸業者であれば、保存しておく文書は、損益計算書・営業報告書等や、大量の請求書や領収書、各種の伝票などがあると思われます。当初から電子的に作成される文書であれば、スキャン作業によるコストや画質劣化はあまり考慮に入れなくても構いません。しかし、手書きなどの紙文書の場合には電子化の方法の検討が必要でしょう。加えて、国税関係の帳簿書類の電子的保存等については事前の所轄税務署長への申請、承認が必要になるので注意が必要です。
 電子化のコストに見合うメリットがでる場合とは、大量の情報処理や同一の規格化された情報の取扱いなど、コンピュータ処理のメリットが活かせる場面です。
 電子化した後、もとの紙媒体をどうするかが問題になりますが、保管コストや紛失による漏洩の危険を考えると、破棄するのが適切です。ただし、e―文書法は細目規定を置いておらず、具体的なところは所轄官庁(衣料品卸業であれば経産省)が定めると予想されます。省庁の動向には注意が必要であり、場合によっては専門家への相談も必要になるでしょう。

提供:株式会社TKC(2005年4月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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