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従業者が属する企業の業務範囲内であって、発明をするに至った行為が従業者の職務に属する場合、その発明は職務発明とされます。そもそも職務発明を含めすべての発明に対する権利(特許権等)は発明者(すなわち従業者)に帰属します。従って、その権利を企業側に譲渡する場合、企業側は従業者に対して「相当の対価」を支払わなければなりません。
最近、この相当の対価がいったいどのくらいなのかを巡って裁判で争われています。相当の対価は、その発明によって企業が受けるべき利益と、その発明がされるにあたり企業が貢献した程度を考慮して決めることになっています。しかし、新聞でも大きく報道された青色発光ダイオードの発明の場合、「相当の対価」が一審では600億円(利益が1200億円で発明者の貢献度がその50%)と認定され、その後、二審の和解では6億円(利益が120億円で発明者の貢献度が5%)と判断されました。このように裁判所でも相当の対価について、それぞれ大幅に異なる見解が出されており、その判断は非常に難しいとされています。
企業側にとって、有用な発明をした従業者を適切に評価し報いることで発明者のインセンティブを喚起させることは経営上重要なことです。しかし、一方では、場合によってその負担が増大することでかえって経営を圧迫してしまうことも十分考えられます。特に争いになった場合、企業側には大きなマイナスとなることがあります。従って、経営者にとって相当の対価をどのように決めるかが重要になります。
「相当の対価」の決め方
今年4月から職務発明に関する規定が改正され、企業側と従業者との無用な争いを避けるために、予め社内の基準を決めておけば、その基準に基づいて相当の対価を決めることができるようになりました。その際のおおまかな留意点は以下の通りです。
1.<まず会社の状況を把握し、会社の規模、発明者たる従業者の人数、職務発明が行われる頻度等を考慮して相当の対価に関する基準を予め決めておく必要があるか否かを判断する>。 必ずしも基準を予め決めておく必要はありません。特に中小企業の場合はそのようなことがいえます。ただし定めない場合には発明1件ごとにそれぞれ相当の対価を決める必要が出てきます。
2.<予め基準を決める場合には、相当の対価を就業規則や労働協約によって決めるか、別途契約をするかを判断する>。また、基準は1つである必要はなく、従業者ごと(役職や部署等)によって別々に決めてもよい。
3.<また予め基準を決める場合には、従業者と協議をする>。 企業側が勝手に決めた場合には、それが不合理であると判断される可能性があります。
4.<策定された基準は適切に開示する>。
5.<さらに対価の額の算定について、従業者からの意見の聴取をする>。
ただし、これらの点に留意しながら基準を決めたとしても、決め方等が不合理であると認められる場合はやはり争いになってしまうことがあります。その点にも留意する必要があります。
このように、職務発明の問題は経営者にとって今後非常に難しい判断を迫られることになりそうです。
これは私感ですが、職務発明を巡って争いが起きる場合、経営者と従業者との間の信頼関係の崩壊がその原因となることが多いのではないかと思われます。従って、争いが起きないようにするためには、単にルールを決めるだけでなく、経営者と従業者との信頼関係を日頃から構築する努力を怠らないことも重要ではないでしょうか。
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