Q&A経営相談室
【アライアンス】
大企業と業務提携する際の留意点
 
Q:
 取引先の大手企業から製品の共同開発の申し入れがありました。大企業と業務提携を結ぶにあたっての留意点を教えてください。(機械部品製造業)
 
<回答者>日本能率協会コンサルティング チーフコンサルタント 横川省三

A:
 企業間の業務提携は、共同開発や販売提携、生産委託などの形態があります。その中で共同開発は、特許などの知的財産や技術ノウハウ、人材、資金などを相互に提供しあい、新たな製品、技術の開発を行うもので、相互の弱点を補完しあう狙いがあります。中小企業は技術ノウハウや人材はあるが資金がないというケース、大手はその逆の理由で提携する場合が多いようです。また互いの強いノウハウを組み合わせ、さらに技術力の高い商品を開発する場合もあります。
 大手企業との提携の多くは、ビジネス拡大のチャンスでもあり、すぐにでも積極的に推進したいところですが、提携後のトラブルも多く、注意を払う必要があります。
 提携相手に想定していた技術や人材、資金がなく無駄手間になった例、提供したアイデアを相手が勝手に商品化してしまい特許まで取得されてしまった例、さらにはその特許を第三者に譲渡され、逆に自社が特許侵害で訴えられた例などさまざまです。
 このような不当な行為を差し止め、損害賠償を請求するには、実務的にもかなりの手間と費用がかかります。したがって、まずは契約段階で、開発成果の権利関係や費用負担、提携の役割分担などを明確にしておくことが重要です。従来からの信頼関係などを理由に契約内容をあいまいにすると、その後の担当者の変更、相手企業の合併などが起きた際に、予期せぬ危険な事態を招くことにもなります。

秘密保持契約の締結

 共同開発の意思決定には、何よりもまず自社の事業方針、ビジネスの展開に合致しているかを確認し、同時に相手先に十分な技術や経営資源があるかどうかを見極める必要があります。とりあえず契約をするといったような、性急な対応は避けるべきです。
 次に提携推進でもっとも重要な場面は相手企業との交渉です。相手が大手企業の場合、交渉に長けていることもあり、最初に一方的な条件を提示され、力関係から不利な条件を受け入れがちになります。その場であわてないよう、事前に交渉方針を弁護士などの専門家と相談し、落としどころを確認しておくとよいでしょう。

 また交渉時に大手企業は社内の専門担当者を何人もそろえるため、人数で圧倒されないよう、相応の人数でのぞむことも必要です。落ち着いて交渉を進めるためには相手方の決定手順、キーマンを把握することも大切です。同様に契約書の案を先行提示することも有効な手段です。
 さらに、交渉の過程であろうと自己のアイデアを提示する以上は、交渉に先だって秘密保持契約を締結することも考えるべきです。
 交渉では、いきおい権利関係や利益分配などに注意が向きがちですが、あわせて提携解消時の処理方法に関してふれておくことも必要です。日本の企業はこの議論を避けがちですが、万一の場合に自己の権益を確保できるよう、あらかじめ条件を決めておくことが大切です。

 限定されたある企業と業務提携を結ぶことは、他の企業との同様な契約が制限されることにもなりかねません。そのため最初から包括的な長期間の契約を結ぶのではなく、まずは部分的短期的な契約を結んだうえで、互いの実力を推し量りながら長期契約にしていくという考え方もあります。
 企業間の業務提携は相互に対等なメリットが享受できなければ長続きしません。交渉にあたっては、互いに補完し協力しあう姿勢でのぞんでいただければと思います。

提供:株式会社TKC(2004年9月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
▲ ページトップへ戻る