A:
ものづくり現場の機械化・デジタル化が進んできているとはいえ、「高付加価値なものづくり」を行うために、技能者の持つ熟練技能を必要とする場面はまだまだ多く存在します。
とはいうものの、属人的な「技能」というものを継承すること自体の難しさに加え、ものづくり現場の忙しさから継承のための時間を十分に取ることが難しく、熟練技能の継承はなかなか進んでいないのが実態です。
しかし、俗に「2007年問題」と言われるように、これまでの発展を支えてきた「団塊の世代」の大量退職がいよいよ目前となり、技能継承も待ったなしの状態となっています。そこで、ベテラン技能者の持つ熟練技能を次の世代に継承していくにはどうしたらよいかを解説したいと思います。
技能継承のステップ
まず行うべきことは、「自社の技能の存在状況の把握」です。自分の会社のどこにどういう技能があるか、その技能を持っている一番レベルの高い人は現在何歳で、後継者は育っているか、などを一覧できる「技能マップ」を作ることによって、自社が持っている技能の“棚卸し”をします。
そして、その結果をもとに、「今後の自社の発展にとって重要な技能の選定」をします。厳しいコスト競争に勝ち抜いていくためには、機械化できる部分は機械化し、外注できる部分は外注を図るべきでしょう。しかしそのような中でも、自社のものづくり力を他社と差別化する源泉となっている技能については、社内でしっかりと維持していかないと、やがてものづくりを革新していく力が失われ、ものづくり企業として発展することができなくなってしまいます。そうならないためには、自社の今後の発展にとって重要な技能を明確にすることが大事です。
こうして自社の発展にとって重要な技能を選定したら、経営者自らが先頭に立って「経営問題としての技能継承への取り組み」を実践します。技能継承は人事担当あるいはものづくり現場の問題として片づけてしまって、経営の問題としての認識が低い経営者を見かけることがありますが、これではものづくり企業の経営者としては失格です。技能継承は、企業の発展のために経営者自らが考えていかなければならない問題なのです。そういった経営サイドの認識の上に立って、技能者の評価処遇制度等を確立していきます。
自社に適した技能継承方法を
実際の技能継承に際しては、「技能のタイプに合った技能継承方策の実施」が重要です。マルチ技能(多能技能)なら「マニュアル化」、高度熟練技能なら「技能塾」というように、技能のタイプによって適切な技能継承方策は異なります。技能塾というのは、高度熟練技能者を先生に、若手が生徒となって技能の伝承を行う手法です。自社単独で行う方法に加え、企業の垣根を取り払い他社の高度熟練技能者に直接技能を教えてもらうスタイルもあります。
また、機械を使いこなしてより高精度な製品を作る「ハイテク技能」の継承には、ポリテクセンターなど地域にある公的能力開発施設が有効といえます。教育投資に多くを割くことができない中小企業こそ、活用を図りたい施設です。いずれにしても、継承を図ろうとしている技能はどういうタイプかを明確にし、それにあった技能継承方策を選択してください
。(インタビュー・構成/『戦略経営者』吉田茂司)
|