Q&A経営相談室
【労  務】
素行の悪い問題社員は解雇できるか
 
Q:
 私生活で素行の悪い問題社員を、できれば解雇したいのですが、どんな理由があれば解雇できるのですか。 (食品スーパー)
 
<回答者> 弁護士 石井妙子

A:
 “素行が悪い”には様々な解釈がありますが、業務に関連しない私生活上の行為については、企業の名誉・信用等、社会的評価に重大な悪影響を与え、事業運営の支障となるおそれがある場合に限って処分や規制の対象としうるとするのが判例の立場です。
 さらに、解雇については、解雇権濫用法理により客観的合理的理由と社会的相当性が必要です(労基法18条の2)。したがって、素行不良を理由に解雇するのであれば、その不良の程度が著しく、信用失墜等による企業運営上の重大な支障(あるいはそのおそれ)があることが必要であり、また、当該社員の反省の有無、日頃の勤務状況、前例等との均衡など、解雇が重すぎることはないかという観点から諸般の事情が検討されることになります。

1.刑事事件

  酔っぱらってけんか(暴行・傷害)、電車で痴漢(強制わいせつ、条例違反)、自転車泥棒(窃盗、占有離脱物横領)などの素行不良を理由に懲戒解雇できるでしょうか。
 犯罪行為であれば、企業の社会的評価に悪影響があると考えられますが、それでも、すべての場合に解雇が相当というわけではありません。この点は、犯罪行為の性質、反省の有無、示談・被害弁償の有無その他情状、会社の事業の種類・態様・規模・経営方針およびその従業員の会社における地位・職種、前例や世間の取扱い例との比較等諸般の事情から総合的に判断されます。そこで、ケースバイケースなのでいちがいには言えませんが、けんかをして怪我をさせても(怪我の程度にもよりますが)、示談ができた場合は解雇までは難しいことが多いでしょう。痴漢については、強制わいせつであれば解雇もありうると思います。条例違反でも、私鉄の社員の例で懲戒解雇有効とされた例があります(ただし、常習性あり。小田急電鉄事件東京高裁平成15年12月11日判決:判例時報1853号145頁)。自転車泥棒については、解雇無効とされた判例があります。

2.多重債務

  多重債務の問題も私生活上の事情であり、しかも犯罪行為のように反社会性・反倫理性があるものではありません。したがって、多重債務を抱えていることや、給与差し押さえのあったこと等を理由に解雇することはできません。取り立て電話で職場が多大な迷惑を被ったとしても、違法・不当な行為をしているのは電話をしている業者の方であり、これを理由に社員を解雇することはできません。
 また、自己破産をしたとしても、この制度は債務者の更正のための制度ですから、これを申し立てたことを理由に解雇をしても裁判所は認めないでしょう。ただし、警備員、証券取引外務員、生保の外交員のように破産が法定の欠格事由となる場合は、当該職種に限定して雇い入れているときには解雇理由となります。 

3.異性関係

  異性関係も私生活上の問題であり、企業運営に多大な影響がある場合でない限り解雇はできません。
 繁機工設備事件(旭川地裁平成元年12月27日判決:判例時報1350号154頁)は、不倫を理由に解雇して無効とされた例です。裁判所は、不倫は社会的に非難される行為であり、素行不良に該当するものではあるが、解雇理由となるのは、企業運営に具体的な影響を与えるものに限ると解すべきであるとし、職務内容、交際の態様、会社の規模、業態等に照らしても、企業運営に支障を生じていると認めることはできないとしました。

提供:株式会社TKC(2004年8月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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