Q&A経営相談室
【危機管理】
手形焦げ付きのリスクに備える
 
Q:
 当社は受取手形が多いので、不渡りを被った場合の経営への影響は深刻です。万一に備えた対策を教えてください。(衣料品卸売業)
 
<回答者> 弁護士 野村憲弘

A:
 手形が不渡りになるのは、手形を発行した振出人の資金不足等によること(1号不渡り)がほとんどです。不渡り振出人の信用を大きく毀損し、不渡り=振出人の倒産と考えてほぼ間違いありません(資金不足等を理由としない不渡りには、形式不備等の0号不渡りと契約不履行等の2号不渡りがあります。前者は手形の形式チェックを徹底すれば防止でき、後者については手形の決済資金自体は「異議申立預託金」として支払銀行に預託されている場合がほとんどで、振出人の言い分を聞いた上で法的手続又は話合いによる解決をすることになります)。
 取引先の倒産に備えたリスク管理としては、一般的には、与信管理を徹底し、適切な与信枠を設定して、日ごろから情報を収集して倒産の徴候を見逃さないことです。取引の拡大や現場の要請等によりなし崩し的に与信枠を拡大してしまい、結果的に一時に大きな焦げ付きを生じさせることはよく見られることで、注意が必要です。
 物的、人的担保を取ることは、リスク管理として効果的です。人的担保としての「保証人」は、手形の場合には、振出人以外の者に裏書をもらえれば目的を達成できます。まったくの第三者の裏書をもらうことは難しくても、取引先(会社)の代表者の裏書をもらうだけでも、いざという場合にずいぶん違う場合があります。
 第三者の裏書をもらっていて不渡りになった場合には、裏書人に支払請求できます。これを手形法上「遡求」といいますが、この権利を保全するためには、満期に手形を適法に呈示する必要があります。したがって、既に倒産した会社の手形でも交換に回して不渡付箋を付けてもらう必要があります。また、白地手形では適法な呈示になりませんので、手形を交換に出すときに、たとえば振出日が記入されているかどうか(空欄のままだと白地手形になってしまいます)等をチェックすることが必要です。

倒産防止共済制度への加入

 実際に不渡りが発生した場合、まず調査して状況を把握し、振出人(取引先)の倒産が確認できたら、不動産を仮差押えする等、一般的な倒産の場合の対処方法をとることになります。ただし、不渡りを出した相手に、実効的な債権回収手段をとることは、一般に非常に困難です。
 手形が商品の売買代金として受け取ったものである場合は、動産先取特権の行使が可能です。民法311条6号により、動産の売主は、売却した動産について優先的な権利を持っています。売却した商品を取引先が保有している場合は、その商品を保全して取引先と交渉するのが実務的な対応です。取引先が、既に商品を転売している場合は、転売先からの代金が取引先に支払われる前であれば、取引先の転売先に対する売買代金請求権を差し押さえることができます(民法304条)。差押えの際、転売先や転売代金を明らかにすることが必要ですが、これらの情報は取引の過程で把握し得るはずですし、日頃から債権管理の一環として情報収集しておくことは重要なことです。
 また、独立行政法人の中小企業基盤整備機構が運営している「中小企業倒産防止共済制度」は、中小企業の取引先が倒産したときの連鎖倒産を防止するための制度です。毎月一定金額(5000円〜8万円)を掛けることで、取引先が倒産した際に掛金総額の10倍の範囲内で共済金の貸付けを受けることができます。掛金は損金に算入できます。万一の場合に備えて加入しておくことをお勧めします。

提供:株式会社TKC(2004年8月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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