Q&A経営相談室
【財務戦略】
短期間で自己資本比率を高める方法
 
Q:
 ある金融機関の担当者に「自己資本比率をあと20%ほど高めれば、企業格付けがワンランク上がる」といわれました。短期間で自己資本比率をアップさせる方法を教えてください。(機械メーカー)
 
<回答者> 税理士 高田照久

A:
 自己資本比率は、金融機関が「企業格付け」を行うにあたり、スコアリングの配分点数が高い「項目」です。このため、ご質問のように、これを高めれば企業格付けがワンランク上がることは、十分あり得ます。
 金融機関のみる自己資本比率とは、実態貸借対照表によって「自己資本÷総資産」で算出されます。したがってこれを高めるには分子を大きくするか、分母を小さくすればいいわけです。
 自己資本を増やすには、(1)営業活動によって内部留保を厚くする、(2)増資を行う、(3)実態として自己資本額の増加をディスクローズする、という方法があります。とくに(1)の方法の、経営計画に基づいて利益をあげ、資本を増やすというやり方が最も望ましいのですが、現在のように厳しい経営環境のもとでは、毎期利益を出し続けることは容易なことではありません。
 そこで、ここでは対症療法として、自己資本比率をアップさせる方法をいくつか紹介します。

保険積立金に着目する

 1つは「役員借入金」があれば、それを現物出資して資本に組み入れるという方法です。仮に資本金が1000万円、役員借入金が2000万円あるとすれば、簡単に資本金を3倍(3000万円)にすることができます。その際、「借方・役員借入金/貸方・資本金」という仕訳(経理処理)を行うのがノーマルですが、現在は「金融検査マニュアル別冊」「別冊改訂版」によって、金融機関側は役員借入金を自己資本とみなしてくれます。ただし、そのためには「長期役員借入金」と表示し、金融機関に説明できるようにしておくことが必要です。
 2番目は「保険積立金」を活用する方法です。先ほどの役員借入金のケースは「負債を資本にかえる」やり方なのに対し、これは「資産の含み益を自己資本とみる」方法です。
 実際に、X社は金融機関に保険積立金の種類や解約時価を説明することによって、自己資本比率を高めることができたケースです。X社には保険積立金が約6000万円あり、その中身を分析したところ、「ハーフタックス」という契約形態の養老保険が4000万円ありました。ハーフタックスとは、法人を契約者とし、「役員・従業員を被保険者、満期受取人を法人、死亡保険の受取人を遺族」とする保険です。従業員の福利厚生を目的としており、保険料の2分の1を資産、残りの2分の1を損金に算入できます。X社の場合、これが4000万円あったということは、解約すればその倍の約8000万円を手にすることができるということです。つまり、時価評価すれば約4000万円の含み益があり、それを自己資本に加算したのです。
 3番目はデット・デット・スワップ(DDS)という方法です。これは、債務(借入)を「劣後ローン」に転換するというものです。
 今回の「別冊改訂版」では、《金融機関が中小企業向けの要注意債権(要管理先への債権を含む)を、債務者の経営改善計画の一環として資本的劣後ローンに転換している場合には、これを資本とみなすことができる》としています。商工中金が今春、東京都中小企業再生支援協議会と連携して金属製品製造業者に対しDDSを行ったのが第1号といわれています。
 このように、DDSは中小企業の資本を厚くするための有力な方法といえますが、実際には中小企業再生支援協議会などと連携しなければできないのではないかとみています。
(インタビュー・構成/「戦略経営者」・岩崎敏夫)

提供:株式会社TKC(2004年6月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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