Q&A経営相談室
【特  許】
「職務発明」の対価について
 
Q:
 特許法の改正で、「職務発明」の対価についての規定が一部変更になると聞いたのですが…(機械部品メーカー)
 
<回答者> 西川特許事務所 弁理士 西川幸慶

A:
 職務発明とは会社の従業者や、国・地方公共団体の公務員等が「職務」として行った発明のことです。
 誤解している方も多いようですが、「職務発明」について出願して特許を受けることができるのは、「原則として」発明者、つまり発明をした従業者なのです。この場合、会社はその特許権について無償の実施権を得ることができます。
 しかし実際には、職務発明については「勤務規則」等で特許を受ける権利を使用者(会社)に承継させるのが一般的であり、特許法ではこのような場合には発明者は会社から「相当の対価」の支払を受ける権利を有すると規定しています。
 職務発明に関してよく問題となるのが、この「相当の対価」の問題です。会社が考える「相当の対価」が発明者の考える「相当の対価」より大幅に少ない場合があり、支払われた対価の額に不満のある発明者が追加の支払いを求めて訴訟を起こすケースが増えています。
 確かに発明者からすれば自分の知らないところで会社側が勝手につくった基準で一方的に対価を決められてしまうのですから、納得できないことも多いと思います。
 最近でも裁判で億単位の対価を認める判決がいくつも出されて話題になっていました。こうした状況をうけ、このような争いを少なくするために職務発明に関して労使の合意を重視する特許法の一部改正が予定されています。

会社と発明者との契約を優先

 「相当の対価」は一律の算定方法により定めるのは困難ですので、今回の改正でも「対価は○○円」又は「対価は売上げの○%」のように具体的に対価を定めることはしていません。
 また、今回の改正は対価の問題を抜本的に解消できるものではなく、対価を巡る訴訟は改正後もなくならないでしょう。しかしながら、訴訟に至る件数を抑えることが期待されています。
 改正では、原則として対価の決定は会社と発明者との契約を優先しています。そして、契約や勤務規則などで対価を決めるに当たっては、発明者の意見が反映されるような機会を与えることや、基準を公開することにより発明者が納得できるようにすることが求められています。
 このような契約がない場合や、契約があったとしても会社が一方的に対価の基準を押しつけるなど、契約に従って対価を支払うことが「不合理」と判断される場合には、現行どおり裁判所により対価の額が決定されることになります。その際には、発明による企業の利益等に加え、発明者の昇給等の処遇や企業側の生産・販売面における努力等も考慮されます。
 ただ、この「不合理」の基準が明確でないため、裁判で「不合理」か否か争われることもあると思われます。ある程度の判決が出てくれば、それを参照して不合理と成らないように手続や運用を修正していく必要があります。
 では実際に会社としてはどのような基準を作ってどのように運用すればよいかということですが、正直言ってまだ大企業でさえ試行錯誤しながら来年の改正に向けて検討しているところです。そのうち大企業の改正法に対応した仕組み作りも公表されていくと思いますので、それらを参考にされると良いでしょう。いずれにせよ、今までのように会社が一方的に対価を決めるのではなく、労使間のコミュニケーションが大切になることは覚えておくべきです。なお、職務発明制度についての一般的な説明は、私のホームページにも掲載しておりますので、ご参照下さい。 ( http://www.jpat.net/

提供:株式会社TKC(2004年5月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
戻る ▲ ページトップへ戻る