Q&A経営相談室
【資金繰り】
DIPファイナンスの活用法
 
Q:
 DIPファイナンスという企業再生のための融資手法があると聞きました。詳しく教えてください。(機械部品製造業)
 
<回答者> 商工中金 組織金融部 主任調査役 佐藤哲哉

A:
  DIPファイナンスは米国で普及している手法で、法的再建手続きである連邦倒産法の手続きに入った企業に対する資金供給の方法です。DIP(Debtor In Possession)とは「占有継続債務者」と訳され、「再建手続きを申し立てる前の経営者が申立後も引き続き経営にあたる」という意味です。
 わが国では、経済産業省・中小企業庁DIPファイナンス研究会の報告書に基づき、民事再生法等の再建手続きに入った企業に対する融資、および再生事業者から営業譲渡等により事業承継する事業者(M&Aを行う企業)に対する融資をDIPファイナンスと呼んでいます。
 商工組合中央金庫(商工中金)は、2001年7月に「事業再生支援貸付制度」を創設し、以来、政府系金融機関のなかでも先駆的にDIPファイナンスに取り組んでいます。この制度は民間金融機関と協調して法的再建手続きを申し立てた企業などを支援するものですが、これが「呼び水」となり、いまでは都市銀行、地方銀行などでもDIPファイナンスに取り組む動きが出始めています。しかし、融資件数、残高ともに決して多いとはいえません。ちなみに、当金庫では2001年の取り扱い開始から昨年末までで69件、61億円の実績を残しています。

経営の選択肢を広げる

  DIPファイナンスは、救済融資ではないので、融資を受けるための前提条件や審査の基準があります。当金庫の事業再生安定化支援資金(DIP安定化)の場合を例にとってみましょう。
  対象となるのは(1)法的再建手続の認可決定から再生手続終了までの再生事業者(2)ガイドラインに沿って私的整理が成立した事業者…となります。
  上の条件をクリアすることに加え、借入にあたり(1)事業の再建見通しに合理的な理由が認められること(2)地域経済の産業活力維持に資すること(3)償還の確実性が見込まれること…という3つの要件を満たすことが必要です。

  さらに、モラルハザードの防止や、再生手続の厳格なフォローと申し立て以降の十分な情報開示をきちんと遂行してもらうために、従来の「約定書」とは別に「特約書(新たな期限の利益喪失事項を定めた誓約書)」を差し入れることが必要となります。
  DIPファイナンスの事例として、神奈川県の金属製品製造業での取組みについて紹介します。同社は従業員約70名の中小企業ですが、2001年6月に民事再生法申請を行いました。同年7月に従業員給与、仕入資金など当面の資金繰り支援のため、短期運転資金4000万円を貸付、さらに8月に地元信用金庫との協調融資が実現(3件3900万円)。2002年1月に再生計画認可決定を受け、同年2月に短期運転資金1500万円(DIP安定化)を貸し付けるなど、9件1億4000万円の貸付により、順調な再生の道を歩んでいます。
  制度融資の前提や要件を満たす必要はありますが、当金庫が実行した69件のDIPファイナンスの実行先で、二次破綻に陥った企業はなく、順調に再建しつつあることは事実です。
  経営者としては、経営危機に陥りそうになったときに、闇雲にがんばって事業の継続ができなくなる事態は避けたいものです。民事再生法などの法的再建手続きを早期に申し立てれば、DIPファイナンスを利用して経営を再建する道も選択肢としてあり得ます。自社の経営にあたっては、危機管理のひとつのオプションとして、DIPファイナンスについての認識を深めておくことも肝要です。
(インタビュー・構成/ジャーナリスト・渡部和博)

提供:株式会社TKC(2004年3月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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