Q&A経営相談室
【店舗運営】
24時間営業に移行する際の留意点
 
Q:
 ここ数年、24時間営業のスーパーが話題になっています。当社も業績が伸び悩み、同じ商圏内の大手が24時間化したこともあって検討を始めていますが、どのような点に注意すればいいのでしょうか。(地元スーパー)
 
<回答者> 商業環境研究所代表 入江直之

A:
 大店立地法の施行以後、大型店の営業時間に関しては事実上の制約がなくなったため、スーパーやドラッグストアなどを中心に営業時間を大幅に延長する店舗が急増しています。
 コンビニに対抗して24時間営業を実施しているスーパーでは、「午後10時から早朝までの時間帯が売上の2割前後を占める」、「従来コンビニを利用していた客層が来店するため粗利益率が向上している」などの好結果がみられます。その半面、人件費などの労働コスト、防犯上の管理コスト、深夜に売り場商品を確保するための運営コストなどが増加するので、必ずしもトータルの収益性が向上しているとはいえないケースもあるようです。
 では、どういう点に注意して24時間営業に移行すればいいのか―。ここで重要なのは、単なる営業時間の延長と24時間営業への移行では、少し異なった面があるということです。24時間営業を行う場合は、単に営業時間の延びた分コストが増加するだけでなく、根本的に店舗運営のコスト構造が変化する可能性があります。
 例えば、あくまで深夜や早朝への営業時間延長であれば、清掃や陳列什器の移動といった売り場メンテナス作業は他の時間帯にずらしたり、短時間に集中して行うなどの体制変更で済むわけです。が、24時間営業へと移行する場合、こうした作業はすべて原則として営業時間中に行うことになります。これが、運営コスト全体の構造をどのように変化させるのかを、中小チェーン店であれば、まず実験店でデータを収集することが必要です。
 また、いずれにしても受発注や物流態勢の見直しが必要になりますから、こうしたコスト増加に見合うだけの収益が上げられるかどうかについても、事前にさまざまな調査を行い、検討することが重要です。

現実的な移行の仕方

 深夜営業へ移行する場合の検討ポイントは、「住民の理解」「騒音」「防犯」の3点といわれます。特に夜間の騒音問題は大店立地法の「環境基準」に密接に関係しますから、注意が必要ですす。また、深夜営業によって駐車場が若者などの溜まり場になり、地域住民の反発を受けるといった状況も想定できます。
 しかし、実は最も重要な点として考えるべきことは、こうした営業時間の延長を「戦術的な政策」として行うのか、「戦略的な政策」として行うのかという問題です。
 競合店対策や、デフレ状況下における売上の伸び悩みを理由とした戦術的な政策としての営業時間延長と、自社の顧客に対する基本的なサービス価値提案として戦略的に位置づけられた営業時間延長の場合では、検討すべき課題や社内の体制づくりにも大きな違いが生じてきます。
 一般的にいえば、営業時間延長のような経営政策は「店舗の大型化」と同じように、人材や資金面などの経営資源で優位に立つ上位企業が下位企業を引き離すために採る政策です。一方、企業規模の劣るローカルチェーンなどがそれに対抗して採るべき政策は、限られた経営資源をいかに有効に活かすかです。それは、単位面積や単位時間当たりの収益性を向上させる政策のはずです。
 一部の店では営業時間の延長によって、接客サービスの低下などの問題も発生しています。
 こうしたことを踏まえて、24時間営業を実施するにあたっては、まず深夜と早朝への営業時間延長からスタートし、具体的な問題について十分な検討を重ねたうえで完全実施に踏み切るべきではないでしょうか。

提供:株式会社TKC(2003年12月)
 
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。
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