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最近、製造ノウハウの保護を重要な課題と考える経営者が多くなってきています。その理由は、実際にノウハウが流出してしまっている事実と、従業員が簡単に転職するようになったことで、転職時にノウハウ流出の懸念をしなければならなくなったからです。
ご質問者のように金型メーカーにおいても、社員が他社に転職する際、企業内の情報を持ち出すことで転職を有利にしようとすることがあります。まずは、この部分を押さえていくことが重要です。
実は、これまで日本国内ではノウハウの法的な保護が十分ではありませんでした。「不正競争防止法」の内容が十分ではなかったためです。それが最近になって、不正競争防止法の改正が行われました。先の国会で成立し、平成16年1月1日に施行されます。とくに注目すべき点は、刑事罰が導入されたことです。不正な競争の目的でノウハウなどを外部に使用、開示した場合には「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」を科します。
そこで、ノウハウの流出を防ぐにはこの法改正を最大限に活用することが有効です。そのためには、次の3つの要件を満たさなければなりません。
(1) |
秘密管理性…… |
守りたい情報が「誰もが簡単に見られる状態ではない」。かつ「その情報が企業にとって秘密にしたいものである」ことを客観的に示す必要があります。 |
(2) |
有用性………… |
例えば製造のための工夫により優れた製品を作るノウハウである、などが該当します。 |
(3) |
非公知性……… |
すでに公に知られている情報は対象にはなりません。 |
このうち、(2)と(3)の要件については必然的に満たすでしょう。問題は(1)です。「誰もが簡単に見られる状態ではない」とは、例えば文書類をキャビネットに入れて施錠管理し、特定の権限者しかそのバインダーを利用できない、ということです。また「その情報が企業にとって秘密にしたいものである」とは、例えば秘密情報の分類基準を設け、バインダーに明示するか、または台帳などで識別することです。
要するに、客観的に示す必要があるため、経営者の頭の中で「これが重要」と決めているだけでは不十分。要件を満たすことはできません。
機密漏洩を防ぐ4大ポイント
さて、この3つの要件を満たし、かつ全従業員に機密漏洩防止を徹底していくためには、次のような手順で行うことを勧めます。まずは、経営者が企業の秘密情報保護の方針を打ち出し、全従業員に対して周知を行うこと。方針は文書化することが望ましい。
次に、全従業員に機密保持に関する誓約書(名称は他のものでも良い)に署名、または捺印させること。入社時に取得している企業では、誓約書の文言のチェックを勧めます。また、退職時に改めて署名または捺印させることも有効です。この際、不正競争防止法に触れておくと、さらに統制力が向上すると思います。
3番目は、秘密情報の管理ルールを作り、実施すること。重要なのは形式的に実施するのではなく、経営者みずからが率先して本気で企業のノウハウを守る姿勢を従業員に示すことです。
最後は、実施状況をチェックすること。内部監査の仕組みを持っている企業であれば、秘密情報の管理に関しても、監査のチェック項目に加えます。
そして、より実施状況の完璧を期する場合にはISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)など、第三者による外部審査を利用する方法があります。外部の人間が現場の状況をチェックすることは従業員に対する事前統制として効果が高いといえます。
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