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不況の中にあって新規取引が増えることは、企業経営者にとってありがたいことだと思います。ただしそこには、少なからずリスクがあることも認識しておかなければなりません。
下表は、ある大手商事会社での過去25年間に起きた取引上の事故について、その取引先が取引開始から倒産するまでの年数を調査したものです。業種などによって、この数値は相違があるかも知れませんが、取引開始から2年以内での事故発生が高いことが見てとれます。このように、新規取引で「ババを抜いてしまう」という例は少なくありません。それだけに、緻密な与信判断が必要不可欠となるのです。
取引事故発生割合
(某大手商事会社における過去25年間の統計)
取引年数
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0年以上
2年未満
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2年以上
4年未満
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4年以上
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事故発生
(件数構成比)
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75.5%
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13.4%
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11.1%
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出典:『営業活動と与信管理』商事法務/末松義章著
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では、その基本的な勘所を紹介しましょう。まずは、相手先の財務諸表から定量面を判断します。ポイントは次の2点です。
(1)どの程度の資金を持っているか
主に貸借対照表とキャッシュフロー計算書を見て、資金的な余裕を判断します。貸借対照表からは、静態的に見た資金の状態を把握し、さらにキャッシュフロー計算書で動態的な資金繰りを確認します。これによって、取引先の資金がきちんと回転しているのか、といった点をチェックします。
(2)期間損益が黒字、または近い将来黒字転換が可能か
これは損益計算書を中心にしながら、貸借対照表やキャッシュフロー計算書をあわせて確認します。赤字決算は、基本的に営業取引上で資金が不足していることを意味しています。利幅が少ないため費用をカバーできない、または、人件費や支払利息等の経費が過大といったことが原因として考えられます。これらを把握して業績が改善可能の状態にあるのかを確認します。
この2点を判断するために必要となる財務情報は、信用調査機関等を利用することで入手することができます(有料)。信用調査機関が作成する「調査報告書」には、財務状態を表した決算書、主な仕入先や販売先、担保の設定状況、銀行との取引状況などが記載されています。決算書の詳しい見方は、税理士など専門家の意見を参考にすると良いでしょう。
直に会って定性面を判断
次に、定性面から取引すべきかを判断します。ここでもっとも重要となるのが、「相手の経営者が信義を大切にする人か」という点です。
企業間取引のベースとなるのは、いうまでもなく相互の信頼関係です。「商いの基本は信用にある」という言葉は、いつの時代においても真実であるとともに、与信判断の際の大きなポイントといえるでしょう。それだけに、相手先経営者の信義に対する真摯さが、取引開始の絶対条件となります。
これを見極めるための一番確実な方法は、相手先に出向くことです。経営者と会い、自分の目と耳で確認するわけです。他県など遠方からの引き合いであっても、極力相手と直に会うことをお勧めします。また、出向いてみたところ、事務所従業員が数名しかいないというケースもあります。こういうときは、念のため商業登記簿謄本を取り寄せて企業として実態があるか(法人登記されているか)を確認します。
加えて、業界紙などから相手先企業の業界での評判なども収集します。さらに同業の知り合いがいれば、そこからも情報を入手します。「火のないところに煙は立たない」という通り、単なる噂レベルの情報であっても意外と参考になるものです。
このように、与信調査の成否は、正確な情報をいかに多く集められるかにかかっています。手間を惜しまないことが、肝要だといえるでしょう。
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